[未校訂]九日 九日きのふに同じ大将ノ君の北の[方|かた]わたらせ給ふ
とてあるじとく[参上|まうのぼ]りぬ。[上|うへ]には御服にて[今日|けふ]の神まつ
りなし巳のくだちなゐふることいみじ。太郎の[童|わらは]ゐ合せ
たる、ともにふれ[伏|ふし]てたゞかくながらともかくもならむ
など[言|いへ]ど、おどろ〳〵しうふりつのり家どもなりはため
くに、え猶もあらずて[廂|ひさし]の[間|ま]へともにはひ出ぬ。[眼|まなこ]くる
めきかいふしをるほどにやう〳〵静まりぬ。皆人おびえ
てとぶらひなどす。近き頃かばかりいみじきはなしと人
も[言|いへ]り。まことやたちし五日の夜より、申酉の方にあた
りて白気たちぬと人[言|いひ]さわげり。天文博士聞えあげて火
の災なるべしなど[言|いふ]はまことか。そは夕日入はつる頃其
気不二の[峰|ね]のわたりより東の方へ帯の如たちわたると[言|いへ]
ればこよひ人々見むといふ。昔よりかゝるたぐひを[聞|きけ]ど
まさしう見ることなし。何はあれ火の災と[聞|きく]いとおそろ
し。むかし寛文てふ年に此気たてりとか。昼くだちては
たいさゝかなれどなゐ弐度ふれり。