Logo地震史料集テキストデータベース

西暦、綱文、書名から同じものの一覧にリンクします。

前IDの記事 次IDの記事

項目 内容
ID J2100036
西暦(綱文)
(グレゴリオ暦)
1847/05/08
和暦 弘化四年三月二十四日
綱文 弘化四年三月二十四日(一八四七・五・八)〔北信濃・越後西部〕
書名 〔篠ノ井風土記〕S41・10・16 山岸松想著・篠ノ井風土記刊行会
本文
[未校訂]篠ノ井の弘化地震
弘化四年(百三十年前)三月二十日(今の太陽暦によると五
月八日)夜、亥の刻過ぎ(午後十一時ごろ)突然襲つた善光
寺中心の大地震は、開帳に参集していた幾万の旅人が圧死し
て、その遺した白骨ばかりでも藁俵に五十一俵もあつて、ど
こへ還元すべきか判らないので、葬つたところが今の山門の
東にある地震塚であるという。惨たんたるものであった。
この時の情況を克明に描写した文献を得たからそれを転載
する。
その震動はあたかも盆を蹴返したる如く不意に上下に劇
震し、方角は戌亥の方すなわち西北より東南へ筋かえに震
動したりと思うばかりにて、その震動たるや、なんともた
といようなく恐ろしき地響して、天地はここに覆り、身は八
万億土の金輪際に蹴落されるにはあらずやと思わるるばか
り、気丈のものも、外に揺りだされ、往来には俵の如く転々
揺り返されながら、なおも地震とは心付かざりしとなり。
また潰され血煙吐きおる者の頭を踏みて辛くもはいだし一
命を拾つたものもあつた。また昔大本願の執事をした西町
の宮下銀兵衛翁の生存中の話であるが、翁は地震の時九才
であつたが、地震とは思わず、長脇差どもが大けんかを始
めたのだと思つたそうである。それは従来善光寺町では正
月と春秋二季の彼岸、六月行われる祇園会、これに御開
帳、これらの際には他領から長脇差ども多く入り来りて、
あたかも成田山の開帳の際に関東の博徒ども寄り集る如
く、公然と大賭博が行われるを例とし、その都度必ず大け
んかをするのであつた。それがまた取りわけ善光寺の開帳
といえば、維新前までは、長脇差どもがほとんど血の雨を
降らす大けんかを常例とせしものなりと。こうしたことを
見て地震とは心付かず人の喚き叫ぶは多分大けんかの始ま
りで、かく物騒がしく家人まで驚き騒ぐにあらざるかと思
いつつ、あまりの震動に脇差手ばさんで外に出て見るや、
外はおびただしき強風にて、砂塵面を吹き捲くり、あちら
こちらで地震だ地震だと叫ぶので初めて地震なるを知りし
と。
弘化四年の大地震の情況を克明に描写した文献には、さらに
次のように続く。
また同じ西町の露木彦左衛門翁の生存中の談によれば、翁
は地震の時三十二才であり、当時三才の長男豊十郎は無惨
にも二階の梯子段の下敷となつて死亡し、自分は揺り抜け
た壁の下になつてコタツの側に押し倒されたがなおも地震
とは気がつかず、夢中で壁を破つて辛くも穴を明け、頭を
もたげて座敷の方を見るに、畳は男波女波の躍るが如く拝
み打ちに躍りおるを見て初めて地震と知りたるなりと。
いづれにせよ、その震動たるや真に瞬間にして、地響きし
たるか家揺れたるか、わきまい得ざるうちに、善光寺千石
の領地、俗に八町両門前、三カ村は申すに及ばず見渡す限
りの人家は、ガラガラと将棋倒しに波に打たれて押倒され
たるが如く、親子夫婦も相助け呼ぶの暇もなく、大方はそ
の下敷とぞなりたりける。たまたま逃げだしたるものある
も、今まで白昼の如く輝き渡れる万燈は一時に消えて西も
東も弁ぜられず、加うるに旋風の如き烈風砂塵を巻いて吹
き荒れ、亀裂せる地裂の間より噴き出る泥水は鼻をつく、
それに朝日山の方にあたりては百雷の一時に落るが如き大
音響とともに、紫電白光ひらめきつつ、寸前尺魔の暗夜を
破りて、崩れ落つる音もの凄く絶え間ないのであつた。こ
れは朝日山の抜け落つるにあたりて、石と石とが摺れあう
て火を出したるなるべし。あちこちの倒れし家の中よりは
助けてくれ助けてくれと悲鳴をあげるもあり、今までの極
楽浄土はたちまち地獄の有様にぞ変りはてたり。
とある。
(中略)
このほか地震の災害を拾つて見ると、犀川から灌漑用に取水
している上、中、下の三堰は皆潰れ、ことに上堰に至りては
段の原裏まで全形を失い、そこには一つの滝を生じ、四、五
間も堀れ、その滝水は段の原屋敷の半を潰してしまつた。こ
の外御幣川村では、本屋二十四、物置十一、灰屋一、土蔵
十一、寺院二、薬師堂一、横田村では本屋三、会村では本屋
一、土蔵一、本潰を出した―。半潰では御幣川村に本屋六
十八、物置十、社倉一、土蔵二十八、灰屋二、横田村会村には
無く、人畜の被害では御幣川の変死三、怪我三、横田村には
変死二、怪我三、会村には変死一を出した―。記録がある
が、他には管見。其の文書文献に接しない。。
出典 新収日本地震史料 第5巻 別巻6-2
ページ 971
備考 本文欄に[未校訂]が付されているものは、史料集を高精度OCRで等でテキスト化した結果であり、研究者による校訂を経ていないテキストです。信頼性の低い史料や記述が含まれている場合があります。
都道府県
市区町村

版面画像(東京大学地震研究所図書室所蔵)

IIIF Curation Viewerで開く
地震研究所特別資料データベースのコレクションで見る

検索時間: 0.002秒