地震史料集テキストデータベース
[未校訂]［注、A-1、3、4、6、7、9、10、30、31、33及び「史料」第
三巻四七二頁上一二行以下、四七七頁上左三行以下、
八二六頁上八行以下、四八六頁下五行以下、四七二頁
下左七行以下、四九四頁上左九行以下、五〇七頁上左
十行以下、八二六頁下一行以下、五八九頁下四行以下、
七五六頁下一行以下と同文のところ省略
］私儀先達御届申上候通、越後路・信州路大地震ニ付通行難
仕、依之越後能生駅ニ逗留仕、罷在候処今以通行甚差支候義
ニハ御座候得共押而今日出立仕候此段御届申上候 以上
四月八日 松平備後守
一信濃国大地震ニ付、急難御救拝借金伺書
御代官
高木清左衛門
一金弐千五百両
御代官所当分御預所
一惣高五万八千三百六拾弐石九升弐合五勺
内
壱万七千七百七拾六石弐斗九升弐合五勺
中野村外八拾八ケ村
無難之分
残高四万五百八拾五石八斗
一潰家弐千九百七拾七軒
内
七拾七軒 身元可成之者、無難之者共并助候分村々之義
除之
一潰家弐千九百軒 信州高井郡水内郡九拾壱ケ村
内
拾六軒 土中ニ埋り相知不申
弐千百四拾七軒 潰家
七百三拾七軒 半潰家
但、半潰之分木品悉く打砕、不用立、潰家同様ニ御座候
一潰高札場 拾弐ケ所
一潰郷蔵 弐拾弐ケ所
一潰堂宮寺 六拾三ケ所
一潰土蔵 三百四拾三所
一潰物置 九百拾四ケ所
一男女死人 五百七拾八人
一怪我人 千四百六拾人
一死牛 弐拾四疋
一死馬 百五拾六疋
外ニ
善光寺参詣之者其外旅人之者弐百人
右は今度御救拝借金伺之通御聞済相成候趣候由
一御代官川上金吾助様御手代中西仙次郎ゟ手面之趣
其後は御左右伺之呈書も不仕失敬之至御高免可被下候、追
日薄暑相続候得共御揃益御勇健被為渡恐悦奉存候、然は当
国地震之次第予御心得申上候
一当三月廿四日夜四ツ時頃大地震、同夜暁迄ニ八拾度も震
動有之、御預陣屋構ひ板塀六間程震倒、土蔵破損、中之
条陣屋構練塀大半震ひ崩し候得共、建家ハ別条無之、潰
家怪我人等も無之、同陣屋ニてハ庭ニ六夜程野陣を張、
本家ニ住居致し候者無之、翌廿五日ゟ晦日迄ハ震動百六
拾度程も有之、其内大地震六七度ッゝも有之、四月朔日
ゟ六日頃迄ハ程遠ニ相成候得共三拾度も、其内大地震弐
度位も有之、今ニ至り中之条陣屋最寄ハ相止不申、水内
郡村々ニ而ハ十日頃迄野宿罷在候由ニ御座候
一中之条陣屋附水内郡民家皆潰同様、死人夥敷村々ニ有之
候得共今以数不相分、破損之分ハ一躰ニ御座候
一中之条陣屋之義も余程大破ニ相成候次第御座候
一松代領并城下町共潰家多く有之候得共場所ニ寄強弱有
之、是御届之分弐千五百人程、同郡山中郷ニ而は凡壱万
人程之死人之由、同藩之者四月六日之噺ニ御座候
一松代領水内郡山中と唱候一郷ニ而、高三万石余も有之、
物成は凡七万石程も上り候場所有之、右村々ニハ別而地
震強く山崩村毎ニ有之、家居悉く潰れ、怪我人・死人夥敷、
同郡水内橋下犀川縁々平林・長井と申両村有之、大枝郷
岩倉山・桜井山半腹双方ゟ崩れ落チ、岩石ニ而埋り崩れ
込候上ニ、人家或ハ山林とも其儘現れ盤石之如くニ相
成、川下江水一滴も落不申、自然之山を築立候姿ニ而、
川上ハ湖水之ごとく、数十ケ村水底ニ相成、巾七拾町余
も、又ハ所ニ寄拾六町位もあり、長サ七里程水湛、廿四
日ゟ翌月六日迄十日余ニ相成候得共未水落不申、土崩れ
落候場所是迄之平水よりハ九拾間程も高く、追々水湛未
弐拾間程も水増候而（ママ）は流水可申様子無之候、水下村々一
時ニ切落亡村可為と恐怖致し、喰物携ひ山々江逃去、或
ハ一村限り立退き、言語ニ難儘候由ニ御座候
一善光寺町は開帳回向中ニ而諸国ゟ参詣之道者夥敷、同夜
之地震俄ニ震ひ出し候節逃去候者二タ足と歩行間合無
之、押潰され拾人、家内は七八人、怪我人又ハ家内不残
死失致候も有之、其上四ケ（ママ）程ゟ出火、折節烈風忽ち焼広
かり、町並九分通り焼失、本堂・山門・本坊ハ相残り、
其余不残焼失、前代未聞之変事ニ而追々承候得は、寺領
人別ハ八千人之内三千人程死失、旅人・道者凡弐千五百
人程も死失有之由御届、其外道中筋は同様死失人多分之
趣未相分不申候
一善光寺上人家来上田丹下と申者家内下男女共七人暮し之
処、丹下并忰弐人ハ無難、其余死失、右親類七軒・人数
四拾八人之処十三人無難、其余即死致し丹下も地震之次
第東叡山江注進として江戸表江出府之由ニ而、中之条陣
屋江立寄、右地震ニ而家内横死之始末申聞候義ニ而実ニ
歎ケ敷義ニ御座候
一飯山城中凡弐丈も震込候場所も有之由、城下并上田領村
々、稲荷山之義は善光寺町同様地震之上出火、土地之者
は勿論止宿之旅人、道者夥敷死失、其外水内・更級両郡
之内北国往還矢代宿ゟ関川宿之内潰家・死人多く、当月
頃迄取片付も不行届場所も有之、丹波嶋ゟ善光寺辺ハ臭
気甚敷、往来之者鼻をつまみ候程之事ニ候
一此度之地震之模様信濃国ハ水内郡根元と相見へ、山崩レ
地割等夥敷、一村不残皆潰之場所も有之、高井郡・更級郡・
埴科郡・築（ママ）摩郡・安曇郡之五郡は同様山崩も少しニ候得
共先枝葉之姿、其内ニは地脇（ママ）候哉強弱有之、小県郡・佐
久郡は勢ひ而已ニ而震動弱く、夫ニ而も平常之地震ニ競
候得は大地震ニ御座候
一此度之変事ニ付死人善光寺町之者凡三千人、旅人・道者
共弐千五百人余、松代領川中嶋辺ニ而凡五千人、同領山
中郷凡壱万人、須坂領凡千人、上田領凡弐千人、稲荷山
凡五百人、飯山城下領分ニ而凡六百人、中之条陳屋附百
六拾人程、中野陣屋附凡千人、惣躰ニ而は凡弐万六千人
余と申候得共聢と相知不申候
一前書平林・長井村地内崩所川上七里程は湖水之如くニ相
成、四月十三日夕七ツ半時頃崩所左右ゟ切初メ、暫時大
□（切カ）ニ相成、川中嶋村々一円水下、松代城下善光寺町迄水
附候由、又々水死人夥敷有之候趣ニ御座候
一越後国も同様位之地震之趣ニ候得共、潰家も少く、然ル
処三月廿七（ママ）日今町湊辺大地震之由承候得共聢と相分不申
候、下自用文略之一御勘定方御役人ゟ書状之写
道中ニ而追々地震之様子承候処早々之取沙汰而已、更ニ
事実難相分、先々追分宿ニ而浅間山之煙り止り候趣様子
承り候処全く虚説ニ而、前々之通り替候事も無御座候趣
ニ御座候、只々此節ニ而も朝は霜降り、氷張候迄ニ而別
段替候事も無之候
一上田町辺地震去月廿四日、大地震ニ而悉く震ひ候由ニ而
候得共潰家等無之、古家之鴨居仕口外れ候位之事ニ御座
候稲荷山宿は家々悉ク潰れ出火之由、人馬も夥敷死失之
趣ニ而調べ中之由伊賀守家来罷越申聞候
一川中嶋は格別之事ニ而大変と申は是等を申事ニ御座候
右は平林村犀川江山崩落、当時水嵩弐拾壱丈相湛、尤弐
ケ所ニ而川を〆切、初〆切候場所一昨十三日押抜一時
ニ発水致し、川中嶋五ケ村共水損不少、其外堤数千間切
レ入候趣、其外飯山領・松代領共筆紙ニ難尽人死幾万人と
申事ニ御座候、潰家も中々数多く承り候迄ニ而覚切不申
候、只今場所江着致し直ニ明日見分相始候積り之処、旅
宿無之野宿之積り、荷物は不残中条江置付ニ致し、右等
之手続并柴田氏明日直ニ越後江出立致候、何分彼是混雑
致し一両日之内ニ見分之様子荒増し相認早々可申上候、
中条江着致し候斗之処、山鳴致し地震半時之内ニ四五度
も有之、未地震・山鳴は度々御座候、犀川水内橋山崩れ
場所、壱ケ所之方は中々容易ニ破れ不申躰ニ盤石之こと
くニ相成居候由、松本領内御領所村々之内江次第ニ水湛
可申由ニ御座候、佐藤睦三郎絵図面相添申上候間定而右
一件御承知有之義と奉存候、委細之義は大変之場所一通
見分之上申上候間左様承知可被下候
四月
猶以申上候、只々旅宿無之并夜具等之物も無之、是ニ
は実困り申候、善光寺最寄ニ而は山犬多く出候ニ付夜
分通路無之由、是は死人多く有之、取片付方行届兼候
故之事ニ御座候
然は過日場所着御届一同乱筆ニ而申上候処、最早御落手
之儀と奉存候、地震一件殊之外大変成事ニ御座候、佐藤
氏先立而下通り見聞之趣申上置候絵図面別紙差上申候
旨、御落手右ニ而御承知可被下候、御〓後黒田新司江も
一通御見せ被下候様奉願候、扨私義去十五日中条村江参
着仕、翌十六日御勘定方一同同村出立、犀川通小松原村
泊罷越候右途中矢代宿迄は格別之事も無之、潰家も少
く、田畑道割裂候所も薄く候、壁抔は少々落候位ニ有之、
矢代宿ニ而は潰家も相見、夫ゟ千曲川を渡り塩崎宿江移
り候処、次第ニ割相見、土地持上り、村中多分潰家、且
焼失致し候も有之、途中小松原村々方江近寄丈割も大き
く、岡田川と申ハ両縁り堤川床コゟ広
（カ）
く震ひ崩し、干川
ニ相成、底は八角十文字ニ割裂持上り、或は減込み大乱
と相成候、川中嶋は大地震之上ニ水入民家潰、残り候も
押流、且地震ニ而怪我人、死人共夥敷上、猶又水死人多
く未人別等何程之死失有之候哉難取調趣小松原向は小市
村と之間犀川江流し、山間ゟ川中嶋出口両山崩落、彼ノ
虚空蔵山之崩れ盤石之ことく、湛留り水丈弐拾壱丈相湛
候場所押流し候水勢ニ而、前山間ゟ出口之所水嵩六丈余
之高サニ而水鼻押出し相流レ、未平水ゟ水嵩登り居言語
ニ難尽事ニ御座候、同所旅宿無之、山之半腹ニ寺有之、
此所地震ニ而斜ミ候迄ニ而可成ニ付御勘定方一同合宿賄
は領主ゟ参り、膳椀抔は夫々取集メ、陣中之ことく之躰ニ
而一夜を明し翌日ニ相成御勘定方佐藤氏ニは犀川之切込
ミ変地亡所之場所見分ニ参り、私義は虚空山
（ママ）
押抜水干之
様子為見届出張致し、三里余之間可成高き山ニ而里ゟ登
り候事壱里余、追々登り候途中山ニ成候而は割裂候事里
ゟハ一倍ニ相成、絶頂ニ登り候得は長サ拾町も拾五町も
有之、幅五間程・深サ壱丈八九尺ゟ弐拾四五尺位に割
裂、潰家も数千軒之事ニ而中々筆紙ニ難尽、黒沼村と申
村方は中々山深ニ而御座候処、村頭之山崩レ一村不残土
中江押埋り、民家は不及申、人馬共死失、其内漸々弐人助
命いたし候由誠ニ歎敷次第、又中ニは割目へ家はさまり
住居致し候人々生埋ニ相成候由、誠以言語ニ難述只咄ハ
評判ゟ事小ク候処、此度之地震ははなしゟ大きく、場所
之様子は中々書面ニも咄しニも難致大変之事ニ御座候、
夫ゟ平林村江参り、虚空蔵山と申下ゟ壱里登候高山ニ
而、絶頂江登り見候処、山之形は巾七八尺位ニ残し切立
左右江崩落中腹ニ小山并分郷有之、夫をも其儘谷江押落
し絶頂ニ有之候、立木凡拾五町程先ニ有之候、向ふ之山際
江押付、中腹之岩山を犀川江崩落し、川を〆切り盤石之
ことくニ相成、廿日近く水湛弐拾壱丈迄水高ニ而、水上
松本領弐三ケ村水腐致し水干方之所ニ而は平水ゟ六丈相
湛居、其辺川床コ埋り中嶋出来、古川床敷ハ崩れ押埋
り、当時新川ニ相成三拾間程之間岩山之ことくの中嶋出
来、二瀬ニ相流れ至而[悄|モノスゴ]く未川上弐里程相湛、松代領新
町と申候村方水中ニ相成可申と心配致居申候、水内橋も
落橋致し、右崩れ古形更ニ難分御座候、山之中腹ニ有之候
民家拾町余も押出し谷を埋、平地ニ相成候場所不少、家
は地震ニ而斜候儘、庭抔之立木も折もせす、其儘遙先江
押付候も有之、実ニあきれ果申候、右之次第ニ付村々人
気立金銀衣類は不残失ひ、米一粒も麦一粒も無之、領主
ゟ小屋掛を致し、是江差置、焚出しニ而為凌置候、松代
之儀大破損候趣、明日同所城下江参り見分之積りニ御座
候、稲荷山宿之儀は過日申上候通震ひ潰、其上出火ニ而、
是も哀れなる躰ニ御座候、領主夥敷入用と見受申候
一松本之儀山之上ニ有之候処、壱丈余震下ケ城下市中は五
尺程地高ニ相成候由実事ニ御座候、明日は犀川・千曲川
共水難様子并切場所之様子共見分之積り近々中野陣屋元
江参候間、猶又見分之趣幸便可申上候、善光寺は多分之
事ニ而土地之者九千人歟、壱万人位之事ニ皆々推察ニ御
座候
一市村氏在所相の嶋村地震ニ而潰家も無之、死人も無之、
乍併十三日之水ニ而堤悉く押切られ、床か上四五尺水押
上ケ小前之者少々流失、××小屋弐軒流失之趣御預り所
役人申聞、同人宅は怪我無之候由ニ御座候
右之段荒増し申上候、猶此上見聞候趣幸便度々可申上
候、乍御面倒黒田氏江も別紙共為御見可被下候様奉願候、
何も早々如此御座候 以上
四月廿八日夜認 （注、絵図と戯文は省略）