地震史料集テキストデータベース
[未校訂]（注、他出ある御届書は省略）
御飛脚申出之書附
一私共儀先月廿九日並之御飛脚江戸ニ差立、当月四日掛川宿
継立、四ツ前天竜川端江着仕候処、大地震ニ而六疋之馬一
同ニ震倒し、地中大割ニ而泥水を吹揚、前後之宿々村々悉
皆崩、忽出火ニ相成、黒煙一時ニ立登、少之進退も出来不
申、川端江御用物を相守り、野宿ニ而夜を明申候、然処此
所江滞留仕候而は第一不用心ニ茂有之、其上露命を繫候手
順茂無御座、翌日浜松之宿迄御用物は人足ニ持せ着仕候
処、同宿茂同様ニ而、御城崩、宿内茂皆々野宿江出、本家
々々江は一人も居不申候間、定宿之野宿江加り、同八日迄
滞留仕候得共、荒井舞坂震崩候上、津波ニ而引ケ、御関所
も同様ニ而、船々流れ仕、今暫之間渡海出来兼候由之模様
ニ而、往来留ニ付同日ゟ本坂通を越方仕、御油宿ニ罷出、
同宿ゟ鳴海宿迄ハ至而手軽、宮宿半崩津浪ニ而船々流れ仕
候、伊勢路は桑名四日市弐歩通リ崩、夫ゟ伏見迄ハ手軽く
崩家等も相見不申候、伊勢山田四歩通、鳥羽津波ニ而流失
之由、松坂・津・白子辺大崩と承り申候、同十三日大坂江
着仕候処、地震は弐歩通りと相見、格別倒家は見不申候、
石燈籠抔倒候位ニ御座候、併五日之大津浪ニ而大船小船川
下ゟ一時ニ押上リ、安治川橋は勿論、所々橋々押崩、老若
男女皆々船住居仕候処ニ、大津波ニ而悉難船仕、死人数多
在之、日々人網を引、七日迄之御書上ニ安治川口ニ六百七
拾人溺死、木津川口は安治川よりも死人多御座候由承り申
候、御屋敷ハ御別条無御座、併御会所少倒レ懸リ居候ニ
付、御役間ハ御茶屋ニ御転しニ相成申候、紀州大津波、阿波
御城下過半焼失大津波之由、夫ゟ下格別成儀無御座、天竜
川ゟ東ハ三嶋半焼沼津・原半崩、吉原半焼、蒲原・岩淵同
様、此間は富士川水無ニ而歩渡之様子ニ御座候、由井弐歩
通崩、興津津波、江尻・府中八歩通焼失、丸子・岡部・藤
枝・島田・金谷半崩、日坂手軽、掛川・袋井見附半崩、池
田宿大崩ニ而御座候、箱根山東之様子ハ未タ往来留ニ而善
悪之沙汰相分不申候、此段御達申上候 以上
十一月廿八日 村上儀右衛門
□喜兵衛
十一月七日御長柄之者着宿申出之趣
一私共当月四日朝蒲原宿出立、本市場迄罷越候砌、大地震ニ
而本市場宿中不残相倒、吉原宿在家悉倒、往来ニ茂二・三
間計地割夥敷水湧出、吉原宿問屋場ゟ手前両側共ニ家居瓦
等落大半横ニなり、問屋場ゟ向は無程出火、両側共ニ弐丁
程類焼仕申候、右ニ付吉原宿手前大橋落往来相成不申候、
夫ゟ足高山之方江相廻り日も暮道筋も相分不申、足高山下
駿東郡細井津村ニ野宿仕候、翌五日出立仕、原宿江罷出申
候処、右宿中二・三軒も相損し、沼津宿中家居不残崩、水
野様御城塀等見懸リ三ケ所程落御櫓も一ツ落之趣ニ相聞、
夫ゟ三嶋迄之内在家大半家落申候、三島宿ハ入口ゟ両側共
ニ明神迄之間不残相崩、明神前より西壱丁計焼失致、明神
前地引割出水仕、往来茂膝迄位之水ニ而御座候、引割幅弐
尺程長サ拾間計も在之、夫ゟ三島宿手前橋大半損、壱人立
之往来ニ而御座候、箱根山中宿少々損し、夫ゟ箱根宿両御
本陣相崩、惣躰宿中家居ハ不残崩懸り、壱軒として申（カ）分無
御座宿も無之、御関所手前畑宿茂格別之損し無御座様ニ相
見申候
一岩淵宿土手下ニ手習師匠居申候而、手習子余程参り居申候
処、家崩落子供拾三人計も相果申候、蒲原宿ハ出火ニ而、
火之手等見なから罷通り申候、此段申上候 以上
一猶以地震津波中下田湊滞船仕居候大坂安治川伊兵衛と申廻
船、只今入津右船申候ハ、異船津波に揖をいたませ、五・
六人も溺死仕候由、彼地ニ而承り申候、右之趣ニ而は異船
今日抔当所乗込候儀も有之間敷哉と奉存候、此段申上候
以上
一浦賀与力杉村宗右衛門列ゟ下田表去ル四日之地震、引続津
波ニ而同所町人家押流人民溺死数多在之、当時滞船罷在候
異船応接難相成候ニ付、浦賀表へ可被廻哉之段別紙之通申
来候間、則差出申候、宜御取計可被下候 已上
真田平之助
青地源右衛門
一早打飛脚を以御達申候、今七日夕浦賀御奉行松平伊与守様
ゟ御内談之儀御座候間早々参上可仕旨御用人奉礼を以申来
候ニ付、早速源右衛門罷出候処、下田表津浪ニ而同所滞船
罷在候異船浦賀ニ相廻候儀も可有之哉ニ付、為念御用人を
以御内意被仰付趣別紙書取一通差上申候、異船浦賀表入津
仕候ハゝ猶早打さし立言上可仕候 以上
一浦賀御奉行松平伊与守様ゟ御内談被成度儀御座候ニ付、急
ニ参上可仕旨今七日夕御用人ゟ奉札を以申来候ニ付、早速
参上仕候処、去四日下田表地震引続津波ニ而御役宅其外市
中流失等数多有之候ニ付、当時滞船罷在候ヲロシヤ人御応
接之御場所も無之由ニ而、自然浦賀表ニ相廻リ候儀も可有
之哉之段、阿部伊勢守様并御同役一同ニ申来、平穏ニは御
座候得共、先日ゟ江戸表ニ相廻リ度段異人申立居候ニ付、
浦賀表ニも夫々御手当ニ相成、今日為含吃与なく御内話被
成置候由、勿論相廻候ハゝ早速其段可被仰遣旨御用人被仰
聞候事、畢ニ下田表津波ニ付而も人民数多溺死、異人も四・
五人致溺死異船も余程損所有之由、御用人被申聞候 已上
十一月七日 青地源右衛門
十一月七日
吉田権左衛門江真田平之助ゟ之書状
一去四日大地震ニ付而伊豆下田表余程之津波ニ而家居等過半
流失、凡六百人内外も溺死仕、同所江参リ居候ヲロシヤ船
も難船仕、乗組之内五・六人溺死仕候由、ハッテイラも
三・四艘流失仕候由、右之次第ニ而於同所異人応接難相
成、近日浦賀表ニ之様ニ異船相廻リ御役人方も御越之模様
之由、同所ゟ知せ来専御堅御人数之手当仕居候儀ニ付、誠
ニ不慮之天変、既ニ下田諸役人方も馬上ニ而漸御（逃）ニ相
成、御家来之内行衛不相分唱（ママ）も在之候由、可恐事共ニ奉存
候、急御使差懸り大略取束、早々申上度猶奉願後之御便候
已上