地震史料集テキストデータベース
[未校訂]貯穀之義御申渡書状
申渡
去寅年地震、当年出水之国々も有之候得共、諸国一統之仰
付宜趣ニ相聞候ニ付、兼而申渡置候通村々貯穀之分当年柄
格別出情、出穀相増水災不作等之手当ニ行届候様厚教諭い
たし、出穀をも取調早々可被申上候
右は阿部伊勢守殿も申立之上奉行衆被 仰渡候
右之通被仰渡候間得其意此廻状村名主下江、云々候
江川太郎左衛門
卯九月廿一日 役所
大地震 安政二卯年十月二日大地震略記
卯十月朔日出府、榎本町四丁目津久井屋新三郎定番ニ付止宿
ス、二日浅草堀田原火附盗賊御改坂并右近様御役所江賊難引
合ニ付罷出御用済、夕刻右新三郎方江止宿夕飯過、親類横山
町二丁目烟管問屋丹波屋五郎兵衛方へ罷出、蔵前奥座敷ニ叔
母其外之ものと諸話致し居、夜も更行、火之番人四ツ時之拍
子木打鳴し時を報し候塗炭ニ火事と呼声聞付候間、火之見へ
登り見候処、浅草向ふ吉原町と所々之火之見ニ而、半鐘打な
から呼下ニ付下り、先安心と申、四ツ時ニ付見世之者へ寝ニ
付へしと申掛ケ候折、北東之方ニ当り大筒之音ニひとしき声
響キ渡り、上ゟ下へ落る如く震動いたし候間、是は地震なり、
火之元気を附へきと言間も阿らせす、土蔵戸前口之鉢巻崩れ
奥座敷の屋根打抜天井打破り戸前口へうつたかく落掛り、出
這入も不相成、其内何度となくゆり返し震動ミリ〳〵、建家
之潰れる音から〳〵、瓦之落る音恰も大山之崩れるかと阿や
しまれ、一同恐れ驚き、表へ走り出、往来ニ彳ミ居候処、[適火|タマタマ]
之見役御使番乗切ニ而東西走り廻り候得共、家屋之潰れ或は
倒れ掛り多き故、詰所迄行事阿たわす引返し、其困雑言ん方
なし、然ルニ浅草通り・外神田辺・小川町・丸之内・下谷辺
・本所・深川其外所々ニ火事始り、火之手焰々と燃上りさな
から白昼之如く、然れ共火消之もの更ニ見掛す、若此辺ゟ火
事始り候ハゝ、浅草御門左右之土手江逃去可申と申合セ、徹
夜往来ニ彳ミ、夜を明かし、最寄廻り見候処、無事の建家は
無之、何れも大小破損、皆潰れも有之ニ付、自村も心配相成
候間、晦（暇）乞いたし候、内神田・小川町辺は未タ鎮火ニ不相
成、抜道も六ケ敷と心算致し、本町通り常盤橋御門へ向ひ候
処、大門の瓦壁崩れ落、両□石は飛出居、往来止メニ付、右
へ曲り河岸通り鎌倉河岸へ差掛り、護持院原壱番弐番三番原
共地盤流石ニ広キ往還十筋余ニ道成ニ地裂け、右之方高く、
左り御堀之方は一段五六寸も低く、其裂口も巾五寸以上あき、
穴ノ如くニ相成青（カ）砂泥[喰|ハミ]出し、横嶋の様ニ見へ、油断いたし
候ハゝ足を踏込の気遣ひ実ニ恐愕之思をなし、飯田町九段坂
も同様地裂け、番町通りは潰家少し、四ツ谷御門左右之大石
は勿論、其他石掛ケも大堀へ崩れ落大破損ニ見へ、四ツ谷通
りは下タ町之割ゟ潰家少なし、火難も無之、食物相求め候得
共、何方ニも一切無之、淀橋を越、中野村馬宿ニて夜前之残
り冷飯無心、漸く朝飯ニ有付、田無村字柳沢田丸やニ而中飯
いたし、三日夕刻帰宅、家内之もの或は村内ゟ承り候処、江
戸近辺ゟ何分歟軽き方のよし、乍去此年春南之土蔵漆喰まて
上塗いたし候分、八重十文字ニ割レ有之、五日朝板繩壱駄馬
ニ而横山町丹波屋五郎兵衛方見舞ニ相送り、其日人足三人外
村々ゟも人足弐三人宛七ケ村ゟ弐十人相連出ニ付、本所割下
水一□ニ津軽上屋敷西門前支配御代官江川太郎左衛門様御屋
敷長屋・御殿向等不残皆潰れニ付、御見舞旁取片付、手伝とし
て人足差出候処、御役所詰御役人方寄特ニ心得候旨被申聞、二
日之間こわし物之手伝為致、八日帰宅地震見舞として左之通
一金壱両壱分 元〆 長沢与四郎様
一金弐分弐朱 但品物加判 柏木椹蔵様
一金三分 同 上村井善平様
一金弐分 同 津田構六様
一金弐分 ― 細野久蔵様
一金壱分 御門番房吉様
〆金三両三分弐朱
外金弐分 杢左衛門出府入用
此弐分は 名主八人割但壱人ニ付金壱朱宛
残り金三両三分弐朱 高割
高百名ニ付永弐百八拾七文四分六厘掛り
一高弐百拾五名 面割金壱朱 蔵敷村
永六百拾八文壱分 此金弐分一朱三百六十七文
一高弐百三十弐名 面割同断 奈良橋村
永六百六拾七文 此字弐分弐朱弐百七十七文
一高百弐拾三名 右同断 高木村
永三百五十三文六分 此金壱分一朱弐百七十壱文
一高弐百三名 右同断 後ケ谷村
永五百八拾三文六分 此金弐分一朱百三十九文
一高百六拾五名 面割金壱朱 宅部村
永四百七拾四文四分 此金壱両三朱弐百四十四文
一高四拾名 右同断 清水新田
永百拾五文 此金壱朱三百四十七文
一高弐百名 右同断 廻り田村
永五百七拾五文 此金弐分一朱八十三文
一高百七拾名 右同断 同 新田
永四百八拾八文八分 此金壱分三朱三百三十九文
一高千三百四十八名
此永三貫八百七十五文 合金三両三分弐朱弐十三文
追加
小石川御門前水戸様上屋敷裏長屋皆潰れ、此長屋住居儒臣藤
田虎之助東湖と号ス、梁ニしかれ圧死セリ、本所回向院本堂
北西之端へ大穴を掘、町々にて倒れし死骸大八車へ積、莚を
以て覆ひ、諸方ゟ曳行右之穴へ投込候数凡五万余と云、埋め
大塚を築き、其上に大塔婆を建、芝増上寺僧正其外大徳之僧
侶数十人ニて大施餓鬼供養阿り、両国薬研堀名倉何某と申外
科医師の門前、日々何十人となく怪我人療治を乞者昼夜の別
ちなく押掛ケ泣さけひ、其声当りに聞ゆと言、此□（ムシ）中ニ数百之
金を得しと言也江戸北在千住草加宿粕壁最寄は地裂け青砂泥
を吹出し井戸はゆり崩し呑水差支ひ候由此地震ニ付怪敷奇談
は聞込候得共洩し♠ヌ 此時相求候震華鑿要（地震火事明細絵図）江戸
大地震并出火細鑑壱冊ハ安政乙卯地震見聞誌へ綴り込、別ニ
□□（弁カ）ス 写日野谷隆追記ス
（中略）
震災ニ付獄屋御開ニ付囚人逃亡召捕方寄場村ゟ奉行□□（ムシ）
地震災ニ付江戸表獄屋開相成囚人共逃去先々手当次第衣類諸
道具等奪取、在中質屋古鉄買古着屋等江持参金銭にいたし、
又ハ乱妨相働押取（カ）行候趣、且火ノ元慎方猶厳重被仰出御座候
間村々承知書面之者去（ママ・さし）廻り候ハゝ取引は勿論、早速去（ママ・さし）押
可申出旨、関東御取締馬場俊蔵様ゟ被仰渡候間、此段小組合
限、御達し可被下候
卯十月廿三日辰上刻
所沢村
役人
追而三渡世帳面調、来ル廿七日ニいたし度候間村々へ御達
し被下、御早ク御出会可被下候
（注、〔撰要永久録〕［35］と同文につき省略）