地震史料集テキストデータベース
[未校訂]十月二日
一今晩四時頃大地震、夫ゟ暫いたし処々出火、御屋敷八丁三
丁之板木打立四方八面火焰烈敷、其内 御前様・喜久姫様
ハ白金御屋敷江御立退、酒井様・森川様焼失之時分ハ迚も
御逃六ケ敷相見候処、風筋も少打替御無難、右地震付而御
大名様方御屋敷々々・市中家居・土蔵共夥敷為潰、死亡人
多数有之由ニ候得共 此方様江は左様無之死亡人等も無之
御長屋下家なとハ都而崩れ、両御長屋余程傾損、其余は格
別之儀無之、白金御屋敷ハ外廻塀抔崩れ、其余は各別之儀
無之、木挽丁八丁堀御屋敷も右同様、平井新田御茶屋ハ一
ケ所無申分、其外は都而潰れ石小田御茶屋ハ不残潰れ、同
所御武器蔵茂半潰れ、目白台御屋敷 御屋形は半潰、御門
全潰れニ候へ共、一統ニ比候へハ万分之一ニ而も無之由、
前条出火翌三日四時頃及鎮火候事
本文之通ニ候処、御奉行触御知行取磯田助一郎家内上
下七人圧死之段達有之候事
十月三日 晴 □折小震
一前条之趣為可申達御国ニ東海道三日半限之雇飛脚差立候事
一前条地震ニ付御間内ニても損所等茂有之□折地震もいたし
候付、御家老并御奉行以下政府詰之面々ハ表海之御間御使
間也拝借詰方いたし、御勘定方一手ハ御稽古場江相詰、御
吟味方ハ御馬見所江役割所は南着座小屋江相詰候事
（中略）
一昨夜半火事最中御小屋々々大破ニ付、焼出（ママ）等茂出来兼候
付、御馬場江穴を掘、大釜を居へ、飯又ハ粥を一統江配候
様及達候事
（中略）
十月四日 晴 時々地震
一相州御陣屋ゟ之御飛脚今朝着、同所茂余程地震強有之たる
由ニ候得共、御蔵々々抔少々損所有之候迄ニ而、格別之儀
ハ無之段申来候事
（中略）
御作事之順
一御屋敷々々外囲板塀
一御廟崩れ落候分取立
御宝塔起し
但精密之御手入ハ追而
一御奥向危キケ所々々仕直
但右同断
一御宝蔵并御文庫竜口大磯御蔵共荒方之御手入
一少々御手入有之候得ハ相応ニ住居出来候御長屋
一御役間々々御手入
一目白台御屋形并御門共
一平井新田御茶屋
一石小田右同
一白金木挽町八丁堀塀
已下二稜（条の意）之御参談（注細川家独特の語）次第ニ遅速可有之
一新規御立直可 仰付哉之御長屋々々
一所々御蔵々々御囲之義御品ニより寛急
（中略）
十月五日 晴 時々地震
一御馬場御仮屋出来候付御奉行以下政府詰之面々仮屋ニ引移
候事
十月六日 晴
当御屋敷裏御玄関今日ゟ御手入被 仰付候間右御手入中同
所差支候付向々江其段達仕、此段御達仕候 以上
（中略）
十月七日 晴 昨夜ゟ追々地震いたし大震事
覚 辛川孫之丞江
今度地震付而、御作事方之面々心得方之儀、別紙書付一通
宇野市郎右衛門江相渡、猶演達ニ而茂委敷申含、且御作事
所御横目江茂写相渡精々可被示置候 以上
十月七日
覚
今度非常之地震且出火付而、市中は申ニ不及、御大名様方
御屋敷々々茂夥敷死亡人有之候由之処
此方様御屋敷内ニは各別致怪我候者も無之、必竟ハ兼而之
御作事等行届全く潰御長屋等無之故之儀と被考候、如昨今
年地震相続候而ハ重畳其御手当無之候而は重キ人命ニ係り
候様之儀致出来候哉茂難計、依之新規御建直は勿論、少々
之御手入等ニ至迄疎略且手を抜候様之儀無之精々入念丈夫
一式ニ出来被 仰付筈候、尤近々莫太之御物入有之、其上
地震付而破損有之屋敷々々全ク入用之ケ所迄格別手軽ニ致
普請候様此節従 公義御沙汰も有之候間、良材を撰、外見
を飾候躰之儀ハ一切無用ニいたし、其方にては可成丈御出
方相減候様必然候儀申迄茂無之候、且又当表御作事方之儀
年々詰込之人柄にも寄り候事ニ付、一概ニは難申候へと
も、兎角因循之旧習去り兼間ニは内輪煩敷稜も有之様子ニ
相聞、此節武家商家とも一同之普請中 此方様江茂所々御
屋敷并 御菩提寺抔大造之御作事付而は、諸職人等如何様
之術智を以高利を貪候茂難計候間、当詰合之面々一致ニ申
談、音信賄賂躰之儀は一切御用達共江断置、清慮を相守屹
ト御為ニ相成、後来詰込之手本ニ茂相成候程相心得候様精
々可被示置候、万一心得違之族茂有之候ハゝ、内定次第早
速御国許江被差下品ニより御咎を茂被 仰付筈候条、此段
茂可被申聞置候 以上
（中略）
御国江遣候添状ハ状扣ニアリ
十月二日非常之大地震ニ而 御城内損所左之通
（注、〔安政江戸大地震〕一二〇〇頁上左六行目以下の被害記事と同じにつき、付札のみを掲載）
付札
一下谷池端仲町半丁程、同所茅町壱丁目・弐丁目迄不
残、并同所ニ而御本丸御坊主屋敷等九竈程焼失仕候
一同所七軒町半丁程不残焼失仕候
御国江遣候状扣ニアリ
地震ニ付巷説
一西丸下ニ而会津様・忍様、外桜田ニ而盛岡様・郡山様・阿
部様右之御向惣潰之上、多分は御焼失ニ付、怪我人或は死
亡数多之由、殊ニ御家来計ニ無之、御身持之御方茂御申分
有之哉ニ相唱申候得共、聢ト相分り不申候
一大名小路ニ而福山様・因州様・遠藤様・松平右京亮様・永
井遠江守様・土井大炊頭様・本多中務大輔様右之御向々々に
而茂死亡有之候由相聞申候、尤前条之御向程ニは無御座由
一大手御門は奥平様御当番ニ而御家来二人、桜田御門は板倉
周防守様御当番に而番頭を始拾四人死亡、馬場先御門は丹
羽若狭守様御当番ニ而是又死亡有之、番頭潰候木柱ニ腕を
敷れ、いか躰ニ茂抜不申、当人望ニ敷れ候腕を切り呉候様
申候得共見合居候内、若狭守様御出馬ニ付相伺候処、望之
通取計可然、自分刀ニ而切り遣候様被仰付無拠切り落候由
一小川町浜町辺武家屋敷大半潰れ、是又死人数多之由
一吉原町甚敷死亡人千人程と相唱申候
一浅草辺・本所深川辺是又甚敷死亡夥敷との風聞ニ御座候
右は誠之風説ニ而取留候儀ニは無御座、明暦度之死亡より減
しハ申間敷抔相唱申候
一窮民御救小屋、深川海辺大工町・筋違御門外・浅草雷神門
前・幸橋御門外久保町此四ケ所出来ニ相成候筈之由
一万石以下之御衆江は拝借金之御達も有之由御座候
自筆
以別紙申達候、去ル二日之夜非常之地震且大火ニ付而ハ、
同三日雇飛脚を以一ト通申達候通之処、其後同四日
御前様 喜久姫様も竜口江被遊、御帰殿愈以御安泰被成、
此儀ハ奉恐悦候、今以昼夜とも有折地震いたし、一昨七日
之夜六ツ半時分ニは余程強有之、
御前様 御姫様も表海御庭江御立退ニ相成、夜明御帰座有
之候程之事ニ而、一統之人気静り不申、一雨降り候ハゝ平
穏ニ相成可申、昨夜少計ふり候へとも今暁も又ふるハ困た
るものニ御座候
右付而ハ御国許之儀甚以致案方居候処、去ル四日大坂仕出
之抜状昨夜着、同所事異り候様子はいか様とも不申来、誠
ニ海道筋之儀何之評判茂有之候得ハ、其御地ハ弥以御別条
有之間敷と先ツ安心候、左候而東目も各別之儀無之、北目
之様子ハいまた相分不申候へ共、麴町あたり至而軽ク候へ
ハ、夫々之大概被致推了（量）何様江戸表計り之災異と相見、可
懼時節御座候
一当表ニ而都合九ケ所之御屋敷々々并御寺々等大造之破損所
受前更前々ゟ至急ニ御作事之儀申出、職人等至而手少之折
柄、中々手ニ及不申、其上余り多端ニ相成候而、御作事頭
已下少人数ニ而見繕等取締兼候積も有之候付、御所柄等之
軽重寛（緩）急も見計、他筆御用状之通順を立相渡置候事ニ御座
候
一本牧御堅引続御備場御用被為蒙 仰候後ハ、猶更莫太之御
物入有之、殊ニ此節従 公義全く入用之ケ所迄手軽ニ致普
請候様被 仰付有之候へ共、昨今年之様ニ地震相続候而ハ、
丈夫之上ニも丈夫ニ出来不被仰付候而ハ、一統之人気も安
し不申、何分手軽ニ取計候様とハ難及差図、且又当表御作
事方之儀已前より之旧弊ニ而、過当之音信賄賂等被行、間
ニは棟梁躰之者仕手方御用達共と成り合不筋之積方等いた
し候様之儀も有之様子ニ相聞、其末は究而御出方増且手を
抜候様之儀ニも成行候間、事之始ニ聢と及達置候方可然と
咄合、是又他筆御用状之通書付相渡申候、尤向後之締りに
も相成候間、始終別而心得方宜敷候もの江は聢と御賞美可
被下置との儀も申含置候事ニ御座候
一竜口西御長屋・中御長屋は迚も御立直ニ相成不申候而ハ、
難相成、東御長屋も余程之損ニ付立理修理ニも可被 仰付
哉、此儀ハ如何様共いまた相決不申候、然処此砌江戸表
一統之普請に而材木手間料とも別而高価且次第ニ寒気ニも
差向候間、願而（カ）来春取懸りにも致度候へ共、来春 御参府
被為在候へハ御案内之通如何躰ニも納り兼候間、至急之御
手入等相済候へハ早速取懸候、御着府迄ニは可也ニ住居出
来候丈ケ出来致せ、其上之儀をゆるりと取計候様及差図候
筈御座候
一当表御屋敷々々御寺之破損等荒方之書付、辛川孫之丞ゟ此
節御奉行中江差遣候通ニ御座候、諸家様方ニ比候得ハ百分
之一ツも可申哉、此度は先ツ奉恐悦候、御出方荒増之見積
御作事頭承合候処、竜口・白金・木挽町八丁堀にて壱万三千
両計ニ而も可有之と申候得とも、白人（素人）之考ニ而は中々左様
之訳ニ無之、何も歟も打混三四万ニは及可申と咄合候事御
座候、莫太之御物入重畳恐たる儀候得とも御屋敷々々不残
新規御作事之代りと申処ニ而御張込可被申候
一此節所々方々打散候而、大造之御作事ゆへ御作事頭已下別
而手足不申、依之呼登之儀今度孫之丞ゟ御奉行江申遣候由
ニ付、可然様御差図可被申候、役々輪番等ニ不拘御人撰を
以可被差越、左候ハハ御作事頭ハ申ニ不及、御横目抔も此
元ニ而相渡候、心得方書付候写を出立前御奉行より相渡、
其御地ゟ右之気取ニ而罷越候方可然と咄合申候
一御役間々々之内段々破損所有之、且あまり入込候ケ所は急
に立除も六ケ敷、安心成兼候御所柄、重畳恐たる儀候へ共、
非常之儀ニ付奉願、拙者共已下政府詰之面々は表海次之御
間より唐獅子御杉戸外迄拝借詰方いたし、御勘定所は御稽
古場、吟味方ハ御馬見所役割所は南着座小屋、蜜柑方ハ八
丁堀御屋敷江相詰、御小屋々々茂西并中御長屋ハ一切住居
出来兼、東南も過半ハ右同様ニ付、次郎左衛門河岸御物見
相借、御奉行御目附已下政府一手は御馬場仮小屋住居、其
余八丁堀木挽町等も懸、種々ニ繰合、可也ニ納り候間、此
儀ハ先ツ御安心候様存候
右之趣為可申達如是御座候 已上
十月九日 木村次郎左衛門
溝口蔵人
御家老
御中老
充
自筆（注、地震に関係ないため省略）
書取（注、同右）
十月十一日 晴夕方ゟ雨 時々地震
十月十二日 晴 夕八ツ過地震余程強シ