地震史料集テキストデータベース

[未校訂]九六　十月三日　江戸詰内目付用状　在府側役宛
昨夜五ツ半時過大地震有之ニ付、御上屋敷（桜田門外）・御中屋敷（赤坂喰違）・八丁（京橋、
下屋敷）堀御屋敷等御門内外相見廻り申候処、外ケ輪ニ而北御長屋後
御高塀七八間・拾間計、御屋敷内ニ而中道通り御高塀拾間
計、交代御長屋前御高塀八間計等相倒レ、御作事方御役所捻
レ壁等損し有之、同所脇柵御門・同所板塀拾三四間計等相倒
レ、同所続キ石垣所震崩レ震出し等有之、同所持御土蔵屋根
瓦壁等大損し、同所西之方柵御門捻レ有之、御元方脇土蔵
弐ケ所・御桶畳方脇同壱ケ所・御納戸方御役所屋根・中道
通り御土蔵弐ケ所・北御長屋前御城使方持同壱ケ所・御添屋
敷ニ而同壱ケ所等之屋根瓦壁等同所ニ而同壱ケ所、外ケ輪壁
七八分計落、同所ニ而巾弐間半・八間・拾間計、御納戸方持
五間計、御賄方持等之御土蔵三ケ所潰レ有之、村山丹宮（長紀、物頭）・杉
原惣左衛門等御長屋（守礼、物頭・小納戸）・彦根御陸尺部屋・百人組御中間部屋等
入口庇落、松居主計・高野瀬喜介（宗是、目付）・河西忠左衛門（良敬）等御長屋右
同様ニ而、御長屋前御高塀・雲隠等、北御長屋ニ而稲荷社玉
垣・鳥井（居）等倒レ、富田（城使）権兵衛御長屋庇台所辺屋根座敷向天井
等落、右御長屋東角壁落捻レ大損しニ有之、高田栄次郎御長
屋壁七八分計、御組部屋連台共五間計、江戸定夫部屋二階壱
間四方計落有之候由、右之余ニ御作事奉行御長屋少々捻レ壁
等損し、諸御長屋御高塀瓦壁等破損所有之、御殿向損し所有
之由ニ候得共、此義一々相分り不申候、御中屋敷裏御門西之
方御留守居方中野平馬・中田伝之丞幷明御長屋等ニ而一棟、
同所東之方中原悌輔・中山常三郎等御長屋一棟、鈴木久五郎・
還江鑢之介・上総組御中間部屋・中沢喜節・久保田庄司等同
一棟、御歩行御長屋二棟、石居大助・永田信之介・松下十太
等同一棟、宮崎丈輔御長屋・御足軽御長屋四棟等壁落庇潰レ
有之、新道通り御高塀五六間計ツゝ六ケ所倒レ有之、御殿前
御長屋梁落、右裏土手震出し庇椽頰震下り破損有之、西御長
屋前御土蔵弐ケ所、田口秋桂御長屋前同壱ケ所、其余御長屋
向壁落所々損し有之、且御殿向所々損し有之由ニ候得共、何
分相分り不申候、八丁堀御屋敷ニ而松平遠江守様（忠栄、尼崎藩主）御相合辻御
番所壱ケ所、表御門下御番所・御水門御番所・炮術御小屋・火
之見御櫓幷新組御中間部屋等潰レ、御土蔵不残屋根瓦庇壁等
落、御能者横田清六郎・同幸千之介・同葛野太郎次郎・御料
理人西村多十郎・御足軽本多清左衛門・佐野組御中間部屋等
之御長屋一棟、御足軽同一棟等之庇雪隠等相潰レ、外ケ輪ニ
而表御門南之方御高塀弐拾五間計、裏御門続キ東之方同弐間
計、同所東之方角ゟ南江同拾五間計、御厩脇ゟ東之方江同八
間計、本多隠岐守様（康融、膳所藩主）御境同拾間計倒レ、堀長門守様（直武、須坂藩主）御境同所々
破損有之、諸士之御長屋ニ而六棟・明御長屋二棟・御勘定
人御長屋一棟・同御屋敷元〆役御足軽等御長屋一棟所々破損
捻等有之候、御中屋敷ニ而宮崎丈輔義椽頰迄罷出候由之処、
前件之次第ニ而庇落足江当り悩居由ニ候得共、命ニ拘り候様
之義は無之候由、且上総組割役平兵衛・遠藤彦三郎召仕甚吉
と申者、右平兵衛部屋江参り居、両人共前件之次第ニ而庇落
候下江相成候由之処、誰歟両人共出し遣し候由ニ而為指疵は
無之由ニ候得共、急所ニ而も打候哉、強悩居由ニ而命ニ拘り
候も難計可有之候由、御上屋敷・八丁堀御屋敷ニ而は少々宛
之義は有之候由ニ候得共、怪我致し候と申程之義は無之候
由、尤前件相見廻り候節、御上屋敷ニ而御役方之者火之元念
入候様諸御長屋江心添致居候、猶又上御長屋・北御長屋前等
ニ屛風戸障子様之物ニ而囲ひ付多人数出居候体見請申候、右
之余ニも所々江出居申候、御中屋敷・八丁堀御屋敷ニ而も同
様之義有之候、右見聞之趣奉申上候　以上
十月三日　江戸御内目付中
御側役衆中
九七　十月五日　江戸風聞書
（端裏書）
「御城使」
地震并大火ニ付、御諸家方御難儀ニ付、当時諸向御拝借之
分不及御返納旨今日御触可有之処、右位之事ニ而は御救不
相成候趣ニ而　思召可有之間、右御触は御見合ニ相成候
由、御目付方御坊主之風聞ニ御座候
一右同断ニ付、諸町方何れも可致難儀候間、出火跡其外とも
取片付方
公儀ニ而可被成下御調も有之候由風聞仕候
十月五日
九八　十月六日　彦根藩城使大久保権内忠督伺書　老中宛
「（斜包紙ウハ書）八丁堀辻番所地震ニ而相潰
仮番所取建ニ付、御附札有之
御伺書
御日附
十月六日
安政二乙卯年　」
南八町堀井伊掃部頭蔵屋敷、松平遠江守様日割組合辻番
所地震ニ而相潰候間、仮番所取建番人為引移申度奉存候、
依之絵図面相（所見ナシ）添此段奉窺候　以上（札附）
井伊掃部頭内
（忠督、城使）
十月六日　大久保権内
（附札）「書面仮番所地所、此度は見分之者不差遣候ニ付、絵図面之
通仮番所取建番人差置、本番所普請皆出来之上可被相届
候、絵図面留置候、尤仮番所地所之儀は御普請奉行江も可
被相届候」
一〇〇十月十三日鵜飼吉左衛門知信書状　大久保要親春宛
（親春。大坂城代公用人、土浦藩用人）　（知信、水戸藩士）
（端裏宛書）「大久保要様　鵜飼吉左衛門
玉案下貴酬　」
去十日之貴翰昨十二日朝五半頃相達拝見仕候、如仰莵（兎）角寒
暖不定ニ御座候得共、弥御安静奉敬賀候、真ニ御府内之大
変前代未聞之事共、実ニ身之毛も弥立申候、去六日出之書
状一昨日到着之処
（前水戸藩主徳川斉昭・水戸藩主徳川慶篤）
両公御始御庭御茶屋ニ渋紙張ニ而御野陣御同様ニは御坐候
得共、益御機嫌克被為入候趣、且奥向は又端下ニ至迄壱人も
怪我無之趣、是は大幸ニ御座候、両（水戸藩家老戸田忠太夫忠敬、蓬軒・同側用人藤田誠之進彪、東湖）田之不幸実ニ浩歎至極、
弊藩之大患無此上、御憐察可被下候、於　両公も殊外被致
歎息候趣内々申来候、如此天災地殃不堪恐怖、外患内憂一
時ニ不相成様御一新被為在候様仕度候、其本所（小梅村）御下屋敷大
半御潰、死人十二人有之由、扠々御察申上候、併上御屋敷
共火災御免れ之由、是は責而もニ御坐候、小川町御屋敷（土浦藩上屋敷）江は
御近親様方御引移之由、嘸々御混雑之御義と奉遙察候、当
方御連枝之義日々御噂も被為在候由、因、（池田慶徳鳥取藩主徳川、
斉昭五男）州侯ハ別紙ニも有
之通乍大変御別条も無之趣、其外は何等不申来、此方（所見ナシ）ニ而
も朝暮申出居候、一橋（慶喜、徳川斉昭七男）様は別紙ニ申来候通ニ振ニ而は御別
条有之間敷、下（松平忠国、忍藩主、世子忠矩ハ徳川斉昭九男）総殿之事案候得共、是以御次第有之候得は、
一昨日之便ニ申来候筈之処、何之沙汰無之ニ却而宜様ニ推
考仕候、去十日宿次奉書御到来之処
上様御機嫌克御立退被遊、外御別条無之と計ニ候、大城之
御様子相伺候ハゝ申上候様、大手御門も御大破ニ而漸壱人
ニ而通ル位明居候由、其外ハ別紙ニ而大低（抵）御分ニ相成可申
奉存候、併取込中乱書ニ而御分被成兼候半、御推覧可被下
候
一（日下部伊佐次、翼、鹿児島藩士）宮崎定太郎先達而帰参被申付候処、未、（聖謨勘定奉行）川路殿方引払不申、
此度圧死ニ及候旨、野夫も毎度懇意之者ニ御坐候間、及悲
泣申候、渠も国事ニ付而ハ粉骨仕候而此度帰参被申付候
処、旧主薩藩帰参之心願有之趣ニ付奉辞表候由ニ御坐候
処、遺憾ニ可有之察入候、将川路も東湖之事被賞候由、是
ハ旧来之知己之由ニ御坐候間、此度之圧死嘸々残念ニ被存
候半、且東湖之書翰壱二通差上候様拝承仕候、余面白文義
も無之、只麁半切之分は少し面白御坐候間御譲申上候、右
之外色々申上度候得共、何れニも取込居候間、草略拝酬而
已申上候　已上
十月十三日（後略）
一〇一　十月十四日　彦根藩城使用状　桑名藩宛（控）
大御目付跡部甲（良弼）斐守様ゟ之御触書、松平讃岐守様衆（頼胤、高松藩主、溜間席）ゟ到来、
松平越中守様（猷、桑名藩主、溜間席）衆江順達仕候
十月十四日　御城使
（久世広周、老中、関宿藩主）
大和守殿御渡
大目付江
此度之地震ニ而諸民可及難儀候間、御鷹捉飼場江不被遣候、
依之当年は御鷹之鳥被下間敷候、此段例年御鳥被下候面々江
可被達候
一〇五　十月二十四日　老中申渡書　寺社奉行宛（写）
申　渡
（注、〔撰要永久録〕［35］と同文につき略、但、日付は十月二十四日とあり）
一〇九　数寄屋坊主組頭野村休成上書
彦根藩主井伊直弼宛（案）
（前略）
左も無御座候而も、近来ハ世上不穏、大小名・御籏本・御家
人等ハ勿論百性〔姓〕・町人共ニ至候迄一同ニ人心人気転動仕罷
在、其上諸国在々諸所ハ尚更、御当地迄も
天地神罰のミならず
東照神君（徳川家康）の　御怒ニて、古来まれなる大地宸〔震〕言語ニ絶たる事
共ニて御座候、夫而已ならず長崎・箱館（肥前彼杵郡）ハ不及申、浦賀・下田（相模三浦郡）
表へ迄異国船渡来にて莫太の　御入用而已相嵩（蝦夷地）、其上足元ゟ
鳥の立候（伊豆賀茂郡）様に無益の大船を造作し御台場を拵へ、日本国の人
々ハ犬猫も同様に異国人に迄見落され候事、扨々残念之次第
ニ而御座候（後略）
一一一　十月（安政二年）　山中又太郎上申書
安政二卯年十月二日夜四時過稀成地震幷出火ニ付
惣町
一潰家　凡三千五百三拾軒
一出火、南ハ柴（芝）井町・南伝馬町（京橋）・浅草新吉原・本所・深川と
も廿三ケ所、南より北まて
凡長弐里拾九町巾平均弐丁程
惣町、新吉原・本所・深川共
一変死人
四千弐百九拾三人
内
男　千七百人
女　弐千五百八拾壱人
男女不分　拾弐人
右人数之内
新吉原町変死六百三拾弐人
同断
一怪我人
弐千七百八拾七人
男　千五百六拾四人
女千弐百廿三人
右人数之内
新吉原町怪我人廿八人
右に付為御救、野宿窮民之者へ同月三日ゟ町会所其外五ケ所
ニ而焚出し握飯相配被下、其上御小屋左之通相達申候
但握飯壱ツ米三合積り、壱人分一日壱ツツゝ
焚出所
一町会所　壱ケ所
同
一上野山下　同
同
一芝神明社地内　同
同
一深川永代寺境内　同
一牛込神楽坂上高田穴八幡別当真言宗放生寺抔
右八幡旅所地　壱ケ所
右五ケ所焚出し、町会所ニ而弐万人程
外四ケ所ニ而三千五六百人日々出来申候
御救小屋
一浅草雷神門前　壱ケ所
但長拾五間　巾四間　六棟
卯十月五日ゟ同十六日迄小屋入之者
五百八拾六人
同
一上野山下　同
但右同断
同月十三日ゟ同十六日迄小屋入之もの
六拾弐人
同
一深川海辺新田　同
但右同断
同月五日ゟ同十六日迄小屋入之もの
四百三人
同
一深川八幡永代寺境内　同
但右同断
同月十三日ゟ同十六日迄小屋入之もの
百六十六人
同
一幸橋御門外　同
但右同断
同月七日ゟ同十六日迄小屋入之もの
百六拾弐人
右は去ル十六日迄ニ而日々追々相増申候
一小屋入之もの江も一日壱人ニ付三合積り之盛箱壱ッツゝ毎
朝被下、病人・怪我人江は医師掛療治致候、医師左之通り
幸橋御門外御小屋
御目見医師牧野雲元甥牧野良元
永代寺境内同
町医
中村静寿
海辺新田同
（種恭、下手渡藩主）
立花出雲守抱医
南昌慶
浅草雷神門前同
町医
嶋在甫
鈴木淡斎
上野山下同
右
嶋在甫
外ニ
一上野山下江東叡山ニ而も御救小屋御取建、寺領之もの差入
御手当有之候、右之通地震ニ而出火荒増之様奉申上候　以
上
卯
十月　山中又太郎
一一二（十月頃カ）武笠源次郎節資上書井伊直弼宛
乍恐奉申上候、此度は稀成大地震ニ而未相止ミ不申、此度之
天変深ク
御心配可被遊御儀、言語同（道）断奉恐入候処、先以
殿様其外　上方様御別条無御座、益御機嫌克被為遊御座、恐
悦至極ニ奉存候、無御滞被為遊御登　城も、且
上様御立退御供奉迄被為遊、万事御首尾能重畳、誠ニ以難有
恐悦至極ニ奉存候、御家中向ニ而も即死之者も無御座、怪我
之者も多分無御座、是亦一統難有仕合ニ奉存候、全ク深キ
御仁心ニ而、先達而ゟ御長屋向御普請不一通　御配慮御丈夫
ニ被　仰付被下置候故、一統此度之大天変万死一生仕候儀ニ
御座候而、紙上ニ難尽申上難有仕合ニ奉存候、是迄深　御
慈心、此度は御明顕被為遊、不可迯天変　御助命被下置候御
儀、一統冥加至極難有仕合ニ奉存候、方今之御時節柄と申、
不容易天変と申、実ニ深奉恐入候御儀ニ御座候、（後略）
一三二（安政二年）十二月二十三日飫肥藩主伊東祐相修理大夫願書　老
中宛（写）
私領分日向国飫肥（那河郡）連年違作有之、風雨洪水等度々ニ而破損所
夥敷御座候ニ付而は、其年々御届申上置候通過分之損毛御座
候、加之取分一昨丑年（嘉永六年）・昨寅年（安政元年）は打続虫生候上之風雨ニ而、
収納ニ至皆無同様之次第、下々困窮仕候付、右手当方物入多
甚難渋心配仕候折柄、近頃度々異国船渡来ニ付、兼而防禦被仰
付置候御料所下別府海岸（豊後速見郡）ゟ引続領分沿海之場所柄、猶以備向
精々厳敷申付候時節、当夏は領分江唐船漂著、長崎表江（肥前彼杵郡）送届、
是ニも入費不少、彼是差湊莫太之物入相成、必至と究（窮）迫仕居
候砌、此度不慮之大地震、直様隣家ゟ出火、居屋敷住居向は
勿論、長屋・土蔵ニ至迄不残類焼仕、平常之器用を始武器・
馬具・囲米等悉皆及焼失申候、且中屋敷迄も大破ニ相成、誠
ニ案外之仕合御座候、併近海防禦筋之儀は兼々被
仰出も御座候間、不取敢夫々用意可仕、先ツ可也ニも武用之
類ゟ相調度心底御座候得共、前文申上候通勝手向差詰罷在候
得は、右之手段も無御座、誠以当惑心痛仕候、依之何卒出格
之以　御憐愍蓮池於御金蔵相応拝借被　仰付被下候様奉願
候、尤乍恐
御上ニも別而御多端之御時節、ケ様之儀奉歎願候は何共奉恐
入儀ニ御座候得共、前文之次第実以不得止事訳合御座候間、
格別之以　御仁恵如奉願候、被
仰付於被下置は無此上千万難有仕合ニ奉存候、此段奉願候
以上
（祐和、飫肥藩主）
十二月廿三日　伊東修理大夫
一三五　（安政二年）十二月晦日　老中別段達書　禁裏造営手伝諸侯宛
（写）
○本書ハ、城使富田権兵衛ノ筆ニ係ル
今日御手伝被　仰付候面々不残江通達可致事
近年異国船渡来ニ付、御備向御用途多之砌
禁裏炎上、且今般之地震ニ付而は御城内外両山（三縁山増上寺・東叡山寛永寺）
御宮　御霊屋等及大破、其上東海道筋関東筋川々堤川除迄も
夥敷破損致し候付、夫々御手伝被仰付筈ニ候得共、何も江戸
屋敷其外地震ニ而及大破難儀致し候折柄ニ付
御城内外幷両山
御宮　御霊屋、且川々御普請ニ至迄
思召を以　公儀皆御入用ニ而被
仰付候得共
禁裏　御所方御普請之分は別段之御訳柄ニ付、一同太儀ニは
被　思召候得共、無御拠御手伝被
仰付との御沙汰ニ候
一三　（安政二年）九十二月　幕臣佐久間忠平上書　井伊直弼宛
（前略）
右邪蘓蘇凝結之道先年　御制禁以来、近世漸く其儀相絶候御時
節ニ、又右　御制禁被為弛候御儀同様ニは相成不申候哉、右
ニ付而は蛮学之儀も未た流行盛と申儀ニも無御座、夷賊共も
未た申合推参をも不仕、且アメリカ交易筋も下田方未た熟し
合候程之儀ニも無御座候得は、万事未然之機形ニ御座候内、
格別之　御賢考を以て、何卒此節アメリカ国江御差免之下田
方之儀、長崎湊江御場所替被　仰付候御儀御為ニは無御座候
哉、乍恐此儀被　仰付候上、以来諸夷一般難船之外、浦賀・
下田之儀は勿論、長崎之外著岸不仕様、要求之儀は長崎外一
切御取調無御座旨、アメリカ始メ諸蛮貊中江　御触流し被
仰渡候ハゝ、諸夷之者共承知仕、自然と　御古格通之　御厳
命恐怖仕候様相成、要求之儀は勿論、猥りニ浦賀・下田江推
参仕間敷、然ル時は御近海御混雑之御儀無御座、尤アメリカ
者江一度願通被　仰付候儀を、今更御場所替御違変之御沙汰
ニ被為及候様相当り候得共、此儀近来地震激浪之天変度々ニ
およひ、御海岸所々御破損所数多有之候内、別而下田ニおゐ
てハ人家大半流失死亡夥数、既ニヲロシヤ船同所ニおゐて沈
船と相成、不容易及難儀、近来天変度々ニ及ひ候得は、以後
アメリカ船繫中、ヲロシヤ船同様之儀有之候も難計、若し万
々一及其儀候ハゝ、アメリカ難渋可差迫、尤天災之儀は仮令
仇敵たりとも御救ひ可被為　成遣御儀ニ御座候得は、彼等難
船之儀有之候而は、御救助　思召通ニは被為　届間敷御儀ニ
御座候得は、以後入津中、仮令右様之天変有之候共、凌き宜
敷御場所江転所可被　仰付候処、肥前長崎は長湾之入江至而
安泰之湊、殊ニ古来より異国交易所と御定之御場所ニも候得
は、今般右入津場所長崎江被　仰付、交易御聞済之通此地ニ
おゐて被　仰付候旨被　仰渡候ハゝ如何御座候哉（後略）
一四四　（安政三年）正月二十日伊達宗城遠江守書状井伊直弼掃部頭宛
（奥封宛書）「　御直披　（伊達宗城、宇和島藩主）
大徳望彦根贒兄　遠江守
密貴答　」
旧臘初二日付之貴翰当月二日相達雪手拝閲、其頃沍寒之候候
処、愈御清迪御揃奉大賀候、先達ハ御参府無御滞被為在候
由、旧来の通御忠〔籌カ〕策多端と存上候、早速御吹聴も被仰下候筈
之処引続御多忙、殊に十月二日夜之大変ニ而御延引云々奉慙
愧候、其後ハ僕等ニハ御疎情申上恐縮奉存候、仰の通二日之
大変ハ絶言語候次第、大城御始殿楷屋宇瞬目之間頽潰、且烏
有に相成、闔都之軽〔怪〕我人死亡抔不可算事之由、憫痛至極御坐
候、右ニ付種々御配慮も御坐候半、御挽回好機会と奉存候、
追々被仰出も御坐候而難有奉存候、乍末
御全家様御無難御立退相成大賀之至奉存候、留守弊屋無事に
而安悦仕申候、近来ハ如仰　公辺ニ而も種々御困難中、又々
此度大変、扨々御念入被成候旨御尤之儀、外藩之愚劣輩にて
も此末を甚奉痛悶候、況
賢兄抔嘗胆臥薪夜白御御（ママ）配慮と存上候、内憂外患輻湊之時如
何可被成哉、近々東上も仕候間、妙謀深略相同伺候半と楽申
候、当今屈指天下望仰之
賢、殊に御席柄と申、御胸算御含蓄、参府之上御密教奉希候、
三月三日出舶の心得候、愚劣抔ハ私領之破壊、士民撫育さえ
更ニ不行届、夜白念入心痛耳御坐候、右乍不敏可及申丈ハ
天朝公辺御為粉骨砕身之覚悟に御坐候、一昨冬（安政元年十一月四日）之強震海笑〔嘯〕ニ
而小堡始領分一統破損、田地も海浜分ハ沖込相成極而難渋ニ
付奉歎願、去春早御暇被成下、帰邑仕少々取繕撫恤之筋も施
候処、又々去七月十四・廿八日両洪水ヲ以損所夥相成、甚以
当惑千万、折角奉願候而帰邑仕候故、当今も憤励仕候得共、
浅劣不徳候故不行届儀計にて赤面仕候、よふ〳〵海防も去六
月ゟ海中埋立、城下口海浜へ一砲台取建候計御坐候、尚可為
期拝芝御督責可希、先ハ奉報迄如此御坐候、病後別て乱略之
段御仁恕可被下候　□（破損）頓首
孟陬念日
一六一　（安政三年）五月　彦根藩城使今村忠右衛門正幹届書　老中宛
「（斜包紙ウハ書）御中屋敷火之見取建場所之儀ニ付
御名内御届書　一通
但御附札有之
安政三辰年
五月　」
「（指封紙ウワ書）　井伊掃部頭内
（正幹、城使）
今村忠右衛門　」
井伊掃部頭赤坂喰違中屋鋪内長屋上ニ有之候火之見、昨年
地震ニ而潰申候、然ル処同所者差
支候ニ付、西之方土手際長屋上江取建申候、此段御届申
上候　以上）附札（
井伊掃部頭内
五月　今村忠右衛門
（附札）「　書面之通者承リ置候　」