[未校訂](注、宝永地震の項は本書〔南路志〕その他と同文につ
き、宿毛関係の部分のみ掲載)
宿毛付近も随分大きな被害をうけたが、『谷陵記』による
と、その状況は次の通りである。
宿毛付近の被害
榊(栄喜) 亡所 (亡所とは全滅という意)
福良 亡所 山谷の家が少し残る。
小尽(小筑紫) 亡所
湊 亡所 民家と田が海中に没す。
伊与野 汐は全部の水田に入る。家にも入った
が流れた家はない。
田ノ浦 亡所
小浦 亡所
内ノ浦 亡所
外ノ浦 亡所
呼崎 亡所
坂ノ下 亡所 山腹の家が少し残る。
宿毛 亡所 汐は和田の奥まで入る。
はじめの地震ではほとんどの家が倒れ、各所で火災が
発生した。
その時高汐(津波)がおしよせ土居(領主のやしき)
の前に、それらの倒れた家屋は押しよせられただよっ
ていたが、三番目の津波でこれらの家は全部沖へ流れ
出てしまった。宿毛で残ったのは土居にある領主の家
だけであった。
錦 家が少し流された。田は海に没した。
貝塚 亡所
大島 亡所
深浦(小深浦) 亡所
椛 亡所
宇薄(宇須々木)亡所
藻津 亡所
以上が宿毛市関係の海岸の被害状況であるがその他、幡多
郡内の海岸の部落はほとんど流失して全滅しており、中村
は家が三分の二倒れている。その他全般的に地盤の沈下も
あって、潮水が入った水田の三分の一は潮が引いたが、三
分の二は潮が引かず、水田は荒れてしまったのである。
大島の震災状況については、大島の庄屋、小野家々譜に
「宝永四亥年十月四日、大に地、震動し、山穿て水を漲
し、川埋りて丘と成、浦中の漁屋悉く転倒す。逃れんとす
れ共、眩暈て圧に打れ、或は頓絶せんとする者若干なり。
係りし後は、高潮入りなるよしつぶやく所に、大津波打て
島中の在家一所として残る方なし。昼夜十一度打来る。中
にも第三番の津波高くて、当浦鷣社の石垣踏段三ツ残。」
とある、鷣神社の石段は四十二段であるので、三十九段つ
かった事になる。いかに大きな津波であったかがわかる。
具塚浜田家蔵の古文書、「口上覚」には、「宝永四年の大
変に付、右新田(千五百石余)悉く破損し、潮入本知内に
望み、荒地と相成、過分の取務減を以て代々窮迫と相成
候。」とあり、百五十町歩の新田がすべて破損し、潮は本
田の中にまで入り荒地となって年貢が入らなくなり、それ
以後代々窮迫したと述べられている。
この新田千五百石余というのは、三代節氏の時に築造し
たもので海岸に提防を築いて潮の入るのを止めて新田とし
たものである。その堤防が決潰して大半新田は海に没して
しまい、その復旧には約百年の歳月を要し、その間宿毛領
内では領主領民共に塗炭の苦しみをなめている。
この地震で決潰した新田の堤と、その復旧に要する見積
人夫は次の通りである。
一右初ニ相記候領内大変荒の新田場所等大要左ノ通
一錦口堤 宿毛、錦両村
長四八五間、人夫高八〇、〇五七人 地高一七五石
一垣ケ瀬戸堤 大深浦村
長三九間 人夫高四、七八八人、地高八五石
一福良口堤 小尽村
長七九六間、人夫高三二、七六七人、地高二〇〇石
一志沢口池浦堤 大深浦、糀両村
長一五九間、人夫高一四、八七三人、地高一二〇石
一片崎平五兵衛潮田堤 大島村
長七九間、人夫高一四、五四三人、地高五五石
一仏崎より片島迄 大島村
長三三〇間、人夫高七三、五九五人
一中田堤 大島村
長一二〇間人夫高二三、九八八人
一ハダカ島堤 大島村
長五六間、人夫一一、九九五人
大島村三ケ所の地高六八〇石
人夫総高 二五六、六〇七人
右入目米凡二、五六六石余
(浜田家文書口上覚)
となっており、復旧費用は一日一人米一升の割合で計算さ
れている。これが当時の人夫一人役の賃金であろう。
新田の被害は右の通りであるが、潮は本田内にも入り、
更に川の堤防の決潰により、洪水の被害を受けるようにな
った所も多く、米の収穫は少なくなってしまった。一番困
ったのは百姓であるが、この百姓よりの年貢で宿毛領内の
財政をきりまわしている宿毛領主の困窮もまた大きかった
のである。
「享保五(一七二〇)子年より文化四(一八〇七)卯年
までのうち、拝借米、御足米、御取替米、遣はされ候年数
六十七年、米縮高凡七四、九四二石余 右高米、件の年数
に割、一ケ年に米一、一一八石余」(口上覚)とあり、享保
五年から文化四年までの八十二年間に、六十七年間補助を
うけ、その年平均は一、一一八石(四斗俵にすると二、七
九五俵)となっている。
この口上覚は、宿毛領の老役、羽田平角、石河勘太夫、
弘田宇左衛門が、文化四年に、今までの補米、足米等を記
して、今後の足米、補米を願い出た文書である。
それで、足米、補米はこの年以後も続くのであり、伊賀
家々譜によると、それ以後の足米、補米が度々記録されて
おり、宝永の地震がその後百年間も宿毛の財政に大支障を
きたしていることがよくわかるのである。
Ⅶ 九州地方