地震史料集テキストデータベース
[未校訂]○前略 次ニ此地震ニ関スル小藤博士ノ所説ヲ掲グ、
天保四年六月洪水ノ上ニ又凶年ヲ重ネタリ、其年十
月廿六日朝來大雨疾風稍〃暖気ヲ感ジ、午後四時頃
劇震ス、鶴岡ハ軒数ノ一割ハ鴨居落チ、大山ニ二十
軒潰崩、槙曽根、南吉田、奥井新田、廣野新田等半
潰レ、狩川大ニ痛メリ、最上川北方面ハ酒田及鵜渡
川原ニ潰家ナキモ破損アリ、大町（西半田村）及中
川組ハ酒田ヨリ遠カラザルモ大町ニ四十軒全潰アリ、
後者ニモ亦大破多シ、通覧スルニ、震度ハ文化度ノ
半ニ出デズ、亦損村各処ニ散在シテ特異ノ現象ヲ呈
セリ、其後毎日五六回震搖シ、十一月三日頃ニ至リ
テ始メテ止メリ、
此天保度地震ノ文化度ト異式ナルコト前述ノ（一）破
損落纏ラス散〓スルコトノ外ニ、又（二）震地ノ南ニ
偏スルコト及（三）津浪アリシコトナリ、
西田川郡ノ平濵海辺局部ハ浜中以北ニ於テ異様ニモ
損害ヲ蒙ルコト軽シト雖モ、加茂方面ニ大損アリ、
陸ノ地震ト殆ド同時ニ津浪打寄セ、其結果タル京田
組即チ加茂、今泉、金沢、宮沢、油戸及湯ノ浜ノ六
村落ノ被害ハ即チ
痛家潰家七十軒、水死十五人、流失家八軒、流失
船九十二艘
山浜海辺即チ三瀨以南越後境迄ノ沿岸ニ在ル小波渡、
堅苔沢、五十川、浜温海、大岩川、鼠ヶ関及由良ノ
七村落ニ於ケル被害ハ
痛家潰家二百三十軒、水死二十三人、流失家百五
十〓軒、流失船二百十三艘
斯ク南スルニ従ヒ津浪大ニ荒ビタリ、必ズ越後北
部ノ山浜海辺モ其影響ヲ蒙リシナラン、越後本部
ニハ其記伝ヲ欠クヲ以テ見レバ軽害ニ止マリシコ
ト、想像セラル云々、日本海中粟生島近傍ニ震央
ヲ有シ、依ツテ津浪ヲ釀シ莊内南部ニ其余震ヲ與
ヘシガ如シ、
之ニ據ツテ見ルモ庄内地方ニ於テハ津浪ノ被害ノミ
ニ止マラズシテ地震ノ損害亦大ナリシコトヲ知ル尚
ホ庄内小女房村嘉性行（七十六歳）記錄同庄内町屋
村金内藤藏編「長雨洪水地震津浪天保飢饉錄」等ハ
右ノ状況ヲ一層詳細ニ示スモノナリ、左ニ之ヲ抄錄
ス、
一巳十月廿六日晝過大地震ニテ当國秋田越後方迄海
海辺大痛ミ、庄内迚モ酒田大町近辺夫ヨリ川南海辺
辺村々洪水多ク有リ数知レズ、
一其莭加茂ノ入間半時計リ水干肴拾ヒ上ゲ、其後
沖中ヨリ津浪來リ、高サ三丈程高ク相見へ候様
申間候、村々海辺引波ニテ家藏䓁引込レ人モ多
ク死シタリ、
一打上ゲ波加茂明石港迄打上ゲシ様申聞候、
一右津浪ニ越後ノ方へ入リ家入馬痛ミ、庄内増シ
テ痛ミ候様申聞、海辺村々十八ヶ村引渡ニ引込
レ候様相聞申候也、（以上嘉住行記錄）
天保四巳十月廿六日地震津浪書上控
川北遊佐
一民家潰家七十八軒 一痛屋五百廿九軒
一郷藏三ツ 一籾藏二ツ
一土藏並稲藏痛三寸 一鎮守堂潰三ツ軒
一同痛六ツ 一死人二人
一橋大小四ヶ所破損 一大庄屋役宅一軒同半
潰
一寺痛三ヶ寺修験二ヶ寺
以上地震ニ付痛
一民家大浪上リ八軒 一土藏並稲藏痛二十四
一魚船大小痛十四 一鰯網大小六渡
荒瀨
一民家潰百七軒 一痛家二百五十九軒
一同半潰九十二軒 一男一人壓死
一大庄屋役宅一軒痛 一土藏十八
一稲藏廿七 一雜藏七ツ
一小屋三ツ 一鎮守堂四宇
一寺八ヶ寺 一修験八軒
平田
一民家潰家九十軒 一同潰同様百廿一軒
一鎮守堂潰一宇 一稲藏潰六ツ
一土藏大破廿二 一郷藏大破一ツ
一怪我人三人 一斃馬一疋
一怪我馬一疋
川南狩川
一民家潰家四十九軒 一同潰同様百十七軒
一同半潰十七軒 一土藏大破七ツ
一渡守潰家一軒
右上下余目計外組無難
中川
一潰家七十九軒 一半潰四十九軒
一大痛屋八十五軒 一土藏七ツ
一小屋潰六ツ 一死人三人男一人女二人
一民家流失八軒家財共不残 流失家十七軒
一痛家二百三十七軒 一浪打込家六十七軒
一土藏痛五十五 一小屋流失十二
一同潰二十一 一同痛十二
一水死人十一人内男七人女四人 一怪我人二人男女
一漁船流失二 一破船百十七
一濡稲千四百束 一加茂浦泻役家大浪家
財不残流失
一同村御普請小屋潰筏木一本用意船瓦材木不
残流失、
山潰
一田高百廿石程波痛ハキ入 一御制札場流失
二ヶ所
一御番所痛二ヶ所 一民家流失十軒
一潰家七十二軒 一米藏潰十軒
一痛家百九軒 一土藏流失四ツ
一同潰十二 一同痛七十二
一流失並漬小屋二百十七 一同置物小屋六十三
一同痛獵船三百二十七 一寺大痛一ヶ寺
一鎮守堂一宇 一溺死廿三人男十二人女十一人
外ニ二人女秋田郡北内大楯村小突左仲家内
一怪我ニテ死人四人男三人女一人 一怪我人七人
一斃馬五疋 一同午一疋
一米六十五俵 一籾三百九十俵
一稲一万五百束 一雑穀取合百七十八俵
右ハ地震津浪
一潰家〆四百七十五軒 一痛家〆千三百五十二軒
一半潰〆百七十六軒 一郷藏籾藏〆六ツ
一土藏稲藏〆二百九十一 一鎮守屋〆十二宇
一死人〆四十二人 一怪我人〆十二人
一橋痛〆四ヶ所 一大庄屋役宅〆四軒
一寺修験〆廿二ヶ寺 一民家大浪上〆百十軒
一獵船流失並破船〆四百六十艘 一鰯網六ツ
一雑穀物置小屋〆三百三十八 一御番所制札
場〆四ヶ所
以上
炎害ハ庄内ノミニ止マラズ更ニ北方由利郡ニモ波及
セリ、其象泻ニ於ケル狀況左ノ如シ
天保四年十月廿六日地震並ニ津浪アリ、損害ハ神
社一家屋十六軒ヲ流失セシメ潰家六軒（当時ノ總
戸数五百二十三）溺死五人、怪我人七人ナリキ、
陸奥ノ西岸鯵ヶ沢ハ北ノ方、海ニ面セルヲ以テ今回
ノ津浪ノ如キハ直接ノ侵入ニ適セズ、然レドモ猶ホ
其余波ハ免レザリキ、津軽震災資料ニ據レバ左ノ如
シ、
十月廿六日夕八ツ時頃地震余程強シ、鯵ヶ沢ニテ
海水五六町引候ニ付、若シヤ津浪エ相成候哉ト御
仮屋高キ処へ皆々引取候由、当日越後国大地震ニ
テ大津浪ノ節御国元ヨリ買入米ニ罷登候下鍛冶町
ノ町人中畑惣左衛門ト申者上下共海死之由、濵々
人家大痛ミ、庄内酒田辺モ人家痛ミ候由、（葛西日記）
十月廿六日晝頃ヨリ地震強ク、東西濵辺海水二三
十間引退キ候故、津浪ニ可相成カト山林へ逃去リ
候者モ有之騒立申候、（鯵ヶ沢土岐家記）