地震史料集テキストデータベース

天明元丑年　諸民奢成、大小上下之分ち無也
同　　二寅年　甲州異変
七月十四日夜五ツ時大地震陶ル、別而富士山陶、岩々崩れ、大石落、石小屋不残潰れ、参詣の人皆此石ニ当りて死ス、或ハ岩より落死ス、生て帰る者は稀也、百人壱人漸生残る、是も半死半生也、予近き友と富士詣、大山石尊様へ参詣し、不思議の命助り、細／＼の噺聞候処、先達而私共参詣の時分、大地震の様ハ、十四日に相州〓国人趣き、竹の下に泊り申候、夕飯一杯給候と、大地震陶り出し、何扠哉遁々逃出申候、然処供の者少遅足ニ而、家潰、屋根落、尻を屋根ニ而押へられ、漸の事はい出し申候、其家相宿旅人女ともも屋根ニ而首筋をおさへられ、怪我致し、竹の下宿家拾七軒潰申候、偖其夜宿の中へ出て三人手と手を取かわし、今死すると唯念仏一心に唱へ立ても、寝て絶られす、芝や薄に取付、ひれ伏し居候得共、大陶の度々、南や北へ返され、漸其夜を明申候、明方ニ成候得ハ、少々小陶ニ相成申候、夫〓飯を少し食し帰村ニ趣候得共、食事の売無之、甚難義致し、桃抔給へ、菓子を給すかれと休め、藤の木迄着申候、三坂峠山鹿は山梨郡也
今頃ハ村方なとの何様ニ成候哉と案し来候処、藤の木にて細／＼様子を聞、安堵致し候と噺候
富士山に死人多、殊ニ御師へ付候旅人ハ、御師〓翌十五日暁山江登り尋候頃、十五日夜五ツ時大陶、大風有て導の松明一度に打消、其夜又々人死事何十人とて数不知となり