[未校訂] (第二)大地震之事
明治三十五年一月三十日午後十時半頃強震あり 昨年八
月の大地震ニ次ての大地震なり 野辺地震害は昨年と大
差なきものの如し 同三十一日午前十一時頃強震続けり
此時ハ前ニ続ての損害ハなかりき
自家震害昨年の如き腰煉化ニハ損傷なきも昨年ニ反し
て上部之方家蔵共亀裂を生し寒中の事なれハ直に修繕
ニ着手する事もならす春季を待つ外手だてなし
海中寺本堂土蔵造ハ昨年ハ無事なりしニ此度ハ所々亀
裂せり本堂其他ニ備ひある仏像ハ悉く転倒せりと云ふ
自ら建設ニかゝる同寺境内ニある征清勝軍紀念碑ハ少
しも頃斜せず 万歳
乙供野辺地間の鉄道線路三ヶ所斗り破損之由内蛯沢前
蛯沢丑松の家屋全潰し牛壱頭圧死せられ同人の子息某
ハ負傷したりと云ふ
明治三十五年二月三日誌
自家震害
土蔵造りの家屋上部ハ異常なきも腰の辺り煉化と壁の
□接の処其四方の角々ハ破損せり 土蔵五棟ハ悉く少
破す側西の壁少々落ちたるあり鉢巻きの落ちたるあり
扉は何れも上下左右となく(カ)狂ひて快く閉るを得さるに
至る家内ハ神棚ニ備ひある燭台や御神酒碗(カ)等の転落棚
の上の陶器や何歟の転落するあり家族ハ凛として動せ
す火の用心ニ注意し九十有余の老祖母と不具の主人久
治を護る避難の方向を定めん暇なく早震初時間を注意
せり