地震史料集テキストデータベース
[未校訂]北野ハ昔平広ノ地デ森島符丁田篠橋ガ此ノ中ニアツテ東西
ニ分レテイタ其ノ間ニ小川ガ有ツタノデ篠デ往来ノ橋トシ
テイタノデ篠橋トイフ名ガアル、ソシテ城跡ガアル森島ガ
之ニ続キ民家数百軒アツテ市中ノ如ク繁昌シタ地デアル
天正年中ノ地震デ涌没シ其ノ地ハ無クナツテシマツタ、住
民ハ皆離散シ幾星霜ヲ経テ蒹葭ガ生エ元和年中再ビ新開シ
北野新田ト云ヒ相続イテ森島符丁田篠橋等新開シテ倶ニ旧
名デ呼ンデイル（中略）
長島城ハ中古大城デ殿主ガアリ櫓ハ八ケ所アツタガ今（元禄十三年）ハ六
ケ所二ケ所亦櫓台アリ存シ二ノ丸ノ塀ト三ノ丸ノ推塁ハ頗ル繁栄ノ地
デアツタ 天正年中地震ニ依ツテ殿守ガ倒レ 其ノ他モ大
破壊シテ後ニ再建シタケレド、元ノ半分ニモ及バナイ、爾
来城主ハ力ガ弱クテ代々ノ城主ハ零落シ、二ノ丸塀モ何モ
無イ、竹藪ガ生ヒ茂ツテイル…
（中略）
或問 信長記ニ所謂長島五ケ所ノ城地アリ大鳥居、中江ハ
常時桑名領内ニシテ大島、加路戸、篠橋ハ長島領デアル、
加路戸、篠橋ハ天酉ノ地震デ湧没シ唯大島ダケガ頗ル狭小
ナ地デハアルケレド昔ノ城跡ガアリ市廓モ有ル、尾州名古
屋ノ揔見寺ハ此地デ開基シタ、関白秀次公ノ寵女モ亦此地
デ生レタ此ノ説ハ本当ダロウカ、夫レ、長島領トシテ所載
サレテイル高辻記ニ大島村ハ本田二十ケ村ノ内デアリ他ニ
大島新田トイウノガ有ル駒江新田ハ元大島新田トイウ正保二年以来駒江新田ト改ム野田脇トイウ地ハ此内ニ有
ル願証寺顕忍自殺シタ所云々此ノ地又地震ノタメ湧没ス後又新田トシタガ旧名ニ因ル是ハ古来相伝エテ来タ地
デアルカラヨク判ルガ 加路戸ト篠橋 這般ノ地ハ皆新田
ト云ウ 天酉ノ地震後年ヲ経テ再ビ開イタ（中略）（信長ノ死ンダ）後秀吉
ハ大徳寺ニ於テ信長公ノ葬儀ヲ取行ツタ、ソシテ揔見院殿
泰巌大居士ト号シ ソレニ因ンデ大徳寺内ニ一寺ヲ建立シ
揔見院ト号シタ、爾来北畠左中将信雄後尾張内府ト号シ剃髪後常真ト号スニ尾州
ト北伊勢五郡ヲ与エ尾州清洲ニ在城シタ、ソノ時先考ノタ
メニ大島村城跡ニ寺ヲ建テ景陽山揔見寺ト号シタ、是ガ開
基デアル其ノ寺跡大島地内ニ有ル後ニ田圃ニナツタガ其ノ跡ハ小泥池ニナツテイル天酉ノ地震デ破壊サ
レタノデ寺ヲ清洲ニ移シテ再建シタ（中略）老農夫ガ云伝
フノニ加路戸ノ住民ハ加路戸ニハ千軒ノ人家ガアツテ大層
繁昌シタ地デアリ 商人ガ此処ニ居住シタ、織染ヲ業トシ
タ者モ多数住ンダ、天正十三乙酉冬十一月廿一日地震ノタ
メニ湧没シタ後住民ハ悉ク方々へ分散シ織染ヲ業トシテイ
タ者ノ末孫ノ多クハ濃州岐阜ニ居住織染ヲ家業トシテイル
云々（中略）唯浄土寺屋敷ト云ウ（加路戸に）字地ガアルガ何寺カト
曰ク、此ノ寺ハ本願寺派デアツテ天酉ノ地震ノ後今ニ至ル
マデ岐阜ニ居住シテイル（中略）
或問 杉江村万年山或歌舞山トイウ長禅禅寺ハ曹洞宗家門ノ古イ
禅寺デアル ソシテ寺中ニ大悲像ヲ置キ貴賤共ニ之ヲ尊宗
スルガ其ノ創草ハ何時デアロウカ、曰ク此ノ寺ノ開基ノ時
世ハ不明デアル 天正年中徳永法印ガ田圃ヲ寄附シタ其ノ
証文ハ今モ寺主ノ手ニ有ル、又仏像ノヨウナメヅラシイ鉄
デ作ツタモノガアル 則チ従来カラ長ク寺門ガ繁栄シテイ
タコトガ判ル 然シ永禄・天正ノ交戦ヤ天正乙酉ノ地震ノ
難ニ遭ツテ殿堂ハ皆破壊サレ僧侶モ散リ去ツテシマツタ、
ソコデ世牌ハ無ク法ヲ継イタノモ不明デアル 然シ草宇ヲ
構エテ大悲像ヲ安置シ一僧ガ守ツテイタ（後略）
（中略）
或問 唐戸北野駒江等ハ中世ニハ有名ナ土地デアツタガ地
震ノタメニ涌没シタガ再開発シタ 其年代ハ何時カ 答惟
フニ天正年間ノ地震後幾年モ経ズシテ人々ガ此地ニ生活ス
ルヨウニナツタガ唐戸北野駒江ハ再開発ノ時世ヲ知ル人モ
無イ恐ラク菅沼氏ガ領主ノ時デアロウ 是ハ書物ガ無イ為
デアル然ラバ当時其ノ他ニ新開発シタ土地ハ沢山アルガ是
亦後世ニナツテ何時開発シタノカ判ラナイ、依ツテ大凡聞
イタリ見タリシタコトヲ書キ記ス（後略）