[未校訂]二日、江戸及ヒ近國地大ニ震フ。
十月二日夜四ツ時過江戸大地震、諸所家居土藏等崩倒、大變
して出火五十餘ケ所に及ひ、壓死凡十萬人に越へし。公儀へ
訴たる計二萬五千卅九人と云ふ。此度の地震所によりて強弱
あり。其強き所は本所深川鐵砲洲築地淺草邊なり。本芝田町
高輪品川の方次第に輕し。大城より西ハ番町麴町四谷邊輕
し。日本橋邊神田邊兩國邊は強弱中程にて、大に甲乙あ
り。富澤町村松町邊尤強し。凡て傾き壞る。御郭の石垣御門
〻〻櫓多門等崩れ落たる多し。御郭東北の方は別て損せり。
扨失火の場所ハ最初新吉原町地震前より出火の處、又震ひ倒
れて、出火四方一同に起て、君客主僕壓死燒死、此郭中の死
失凡千五百六十人と訴たり。馬道田町猿若町三座の芝居近邊
殘なく燒亡、此邊より日本堤へ懸て所々二三尺程大地裂たり。
又花川戸西側の町家近邊寺院等凡十五六町燒る。又御城外
大手先酒井家辰の口邊和田倉御門内會津家忍家内藤家馬場先
八代洲河岸邊の諸邸幸橋内諸邸悉く潰燒け、數寄屋橋内永井
家本多家日比谷御門内外御番所鍋島家郡山家一圓燒失、小川
町諸屋敷數十所燒る。又東の方本所番場石原邊竪川通綠町花
町邊龜戸小梅邊五六所出火、又深川八名川町籾藏並大橋東河
岸常〓町森下扇橋邊の武家町家八幡一の鳥居邊山本町蛤町邊
所々凡三十町餘燒る。南新堀大川端少々燒け、新大橋際水野
家燒る。南の方ハ鍜冶橋御門外南傳馬町二三町目本材木町邊
かけて竪二町半橫四町餘燒る。又芝柴井町邊燒る。鐵砲洲ハ
松平淡路守屋敷燒る。北の方は下谷池の端茅町上野黑門前廣
小路東側同裏長者町御徒町邊御成小路石川黑田其外大小名御
家人屋敷大凡十四五町燒る。又淺草寺町少々燒け、黑船町諏訪町駒形堂並木邊燒る。此時觀音境内五重塔九輪曲る。千住
小塚原邊燒る。四谷水道の樋大に壞ると云。
東海道は神奈川邊、中仙道は上州高崎邊、大地より砂を吹出
し、日光街道草加邊水戸街所々萠れ、下總船橋邊松戸邊も大
に震ふと云。