[未校訂]○十一月四日辰下刻、大地震、江府武家方屋敷市中家屋土藏
多く壞れ、所として川浪池水、地上に溢る。されども家屋潰
れ、人命を損ふ愁もなし。其夜明日明後日に至るまで江府地
震五七度に及ぶれども強からす。○同日同刻とかや、豆州
下田港大地震、海嘯共に混合して民家大槪流失あり。流死も
千人ばかりと聞ゆ。又同州米良海嘯なりしかど、下田港のや
うにハあらず。東海道總て大地震にて往來を停む。其大略、
東海道を始め其餘諸國の存亡をいへば、先つ小田原箱根兩驛
小損、三嶋宿潰及火災、沼津城郭壞れ、民家過半潰、傷く者
多く、原吉原蒲原由井興津江尻六宿、人家大潰行人通路する
こと能はす。府中御城郭頽れ、死亡傷者多、御城下市中大半
潰及火災、又久能山崩る。鞠子岡部二宿小損、藤枝田中城壘
崩れ、家々潰、火災死亡傷者多、嶋田宿潰、傷者多、大井川
滿水、金谷宿潰、傷者多、相良陣家潰、同所海濱海嘯、家屋
流失、及火災、日坂掛川二宿小損、小夜の中山飴餅茶店潰、
袋井宿潰及火災、見付濱松舞坂三驛小潰、新井宿今切御關隘
及民家潰、又海嘯死亡傷者多、白須賀二タ川二宿、民家大潰
傷者多、吉田御油赤坂池鮒鯉鳴海五驛小損、熱田宿民家大潰
又海嘯、名古屋大潰、桑名四日市二宿小損、海邊海嘯、神戸
白子二宿潰、津城下松坂山田等潰、内宮外宮も震へども恙な
し。河崎大濱鳥羽湊邊は動搖強からねど海嘯にて民家潰流失
死亡傷者あり。久居城下及田邊いたく震ひ、石藥師庄野龜山
宿等、其餘江州路より大津伏見迄動搖強かれど、五日申上刻
とかや、大震及海嘯にて鳴動漲水大かたならず、その大槪仙
波御城郭邊、堂島天滿新町筋道頓堀邊安治川口總て家屋潰、
且安治川邊海嘯にて凡七百軒ばかり流失、天保山頽る。又橋
の崩れ落たるハ長堀の高橋、堀江の水分橋、黑かね橋、道頓
堀の樋吉橋、汐見橋、幸橋、橫堀の金谷橋、龜井橋、安治川
橋等なり、こゝらの騷動に依て諸人互に爭て大小數艘に乘入
り、各一身を退れんとて周章戰慄す、浪ハ頻に溢れ、數艘一
時に水面に混雜し、大船ハ小船を打毀し、死亡傷者多く、又
尼ケ崎城郭及城下大潰、伊丹池田西宮灘兵庫邊潰れ、又火災
播州は明石加古川邊強く震ひ、四國ハ阿波德島城郭潰れ、城
下潰れ、火災、其外迄國震はざる所なく、讃岐土佐の二州に
響き、終に九州の果まで震ハざる所なく、紀州地震許多の浦
々海嘯、民家流失死亡數しれず、若山加田邊、本宮新宮日高
邊總て強く搖き、那智高野の山谷大に荒る。同所國筋は甲府
御城下市街、信州ハ諏訪松本飯田邊強く震ひ、加賀能登越の
國々へもそゞろに響きわたれりとぞ。