地震史料集テキストデータベース

[未校訂]文化八未年正月三日夜子刻頃御山ノ方ニテ頻ニ地響
鳴動有之候テ、寢枕不穏候ニ付村中ノ老若男女門ヲ
明見請候處、白晝ノ如クニテ、従來ノ小石マデモ見
分リ候體ハ、御山ノ方ヲ見上候得バ、御發頂ノ方炎
ノ炎上リ次第ニ寅卯ノ方エ火先向、同卯ノ刻前燒鎮
リ候、最前燒出シノ頃ヨリ地震ハ甚シク聊無止間、
翌四日ニ至リ候テモ震動不止、谷々鳴響人氣不穏、
同五日毎年定日ニ付、爲年禮自分其外村役人出村致
シ候處、石川橋ニテ伊豆村小歩行ノ者ニ行氣逢候得
バ、彼者申候ハ、同村地内貳反原ノ邊山ノ上ヨリ同
磯邊大坊ノ鼻迄六尺程ノ間ヲ置、割口壹尺計ニ貳筋
割レ、且又ヤケ新田ノ方ハ、是モ山ノ上ヨリ右同様
ニ貳筋割レ、同村磯邊字姉ヵ潟迄割レ候㫖注進致シ
候ニ付、何様ノ變事可致出來モ難計、女子ドモハ歸
村致サセ、村役人計伊谷年〓相勤候、然處炎上ノ頃
ヨリ地震地響等、同八日夕方マデ日數六日ノ間晝夜
トモ不相止、ソレヨリ地震ハ相止候得共、谷合鳴響
事雷鳴ノ如ク、ソレヨリ日數相立、村々役人共召連、
島下ノ方見聞致シ候處、字カンナ郷百姓藤右衛門ヒ
ラ畑ケ〓〓畑ケニテ曽根ノ方ニ大石有之、山業ノモ
ノ急雨ノ節ハ其石ノ下ニテ雨宿リ致シ候程ノ大石ニ
候處、紛失致シ處々相尋候得バ、凡貳丈程モ下ノ澤
合ニテ三四段モヲクタ有之候處ヲコケ落候跡モ無之、
ヲクタモ聊痛不申候、燒砂石ハ一面ニ降積リ有之候、
夫レヨリシトリ山中江參リ見合致シ候處、社ノ前ニ
凡六尺程モ有之候大石、凡幅三尺長サ四尺程缺ケ失
候、其カケ右近邊ニ無之、尤燒砂石ハ燒碎ケ降積候
事、深キ所ハ凡壹尺五六寸餘、淺キ所ハ壹尺餘、夫
レヨリ坪田村地内蓬ノ尾ヨシノ尾邊分テ深ク積リ申
候、尚又伊豆村ノ方エ罷越見分致シ候得バ、貳反原
山上ヨリ幅六尺程隔貳筋割レ有之、ヤケ新田ノ方山
上ヨリ右貳ヶ所トモ磯邊迄割レ有之見分致シ候處、
木ノ根有之候得バ、真中ヨリ貳ツニ分リ、右有之候
得バ是又貳ツニ割、其筋少モ違ヒ無之候、日數相立
候得バ、自然ト埋リ、作場ノ痛ニ相成不申、砂石降
積リ候場所モ是又仕付モノ等ノ障リニ相成不申候、
後代ニモ斯ル事ドモアラバ、皆人心ヲ清クシヒトシ
クシテ神社ヲ〓〓マフベシ、爲未代然ク記置畢、
未二月　壬生肥後實雅