○徳島県、S46・3・1 徳島県立図書館編 金沢治監修 (株)「出版」発行、
山崎村斎部神社之記
麻植郡山崎村王子権現の傍に天日鷲命のほこら有之侯其もと社は今の社壇より凡二三十間計上に御座候然処其地応永年中之比地震の時崩申して今の所へずり落申侯其節鏡たまなとの類ひろい申候扠其辺より出申候土器は甚古き物にて全神代之神供之類と相見え申候今も其辺を掘申候はゝかはらけつほの類様々出可申候此旧社の西の方に御座候谷を日鷲谷と申候又は隠谷と申伝候今日吉谷と申候は其辺に山王権現の御社御坐候故もし云あやまり申候事もやと存申候又ある説に曰わしのみことかくれさせ給ふ処と申伝侯ゆへに隠谷とかや申候扠又此辺に大なる木あり里人むかしより青木と申伝侯其木幾年に相成申候や難斗御座候へ共いにしへより申伝候通といまに其木の有様さらにかわり不申候是を又昔より日鷲命の御身を隠したまひしあとゝかや申伝候其木の根より凡二尺斗上に朽たる所御座候て其穴より水わき出申候て春秋たへ不申候其水を異病のものなとにあたへ申して本腹仕候事むかしより数々ためし御座候あるとき西方寺の堂宿云やうかくとて何の事かはあるへき哉とて斧にて彼木を切らんとて行て一枝打と見へしかたちまち彼僧死にけりそれよりこのかた猶更恐多見て里人尊みけり其ふもとに岩戸の社とてほこら御座候其辺は一面に奇妙の石にして中にも高きいはほのいたゝきにはわたり壱尺斗の穴御座候て常に清水をたゝへひてりの時といへとも其水かわき不申又大雨の後といへとも更にあふれ不申侯されは昔より聞伝ふる処と今も其物語に一々たかふ事なしあるとき三島村蓮光寺の僧かねて宿仰仕処折節異病にて医師なと色々手を尽し申候所あるよ曰わしの命あらはれまし/\岩戸の水をのみなは無程平癒すへしと告たまふと覚へてゆめはさめにける扠はとて早速彼水をくみてあたへけれは日ならすして全快いたし申候扠又かのいはを日鷲命を類向石と申水を延命水と申伝候其東につゝき申候池を神の池ともまた岩戸いけとも申伝候いにしへ此地に身をなけんとて行く者御座候所水そこにすゞの音などいたしあまりふしき成事よとて帰りて其よしを告けるよしかやうの事ひとりのみならすためし御座候もとより此池に身なけ申候て昔より死申候もの承不申候扠また村雲の社とて民家のうちに御座候又此辺をさして雲宮と申伝候是も此社有故にや申伝候偖又忌部の御社は長山のすゑ短山の辺りに御座候よし聞伝他国迄も仰申候て参詣日々絶不申候誠にかゝる事のためしおほく殊更もとの社の辺より様々古き品々出申候より猶も此里をこそ忌部の郷と聞つたふるも尤なりと昔より老少口々に云伝聞つたふるのまゝ凡書付申候 縁起終